宇宙混沌
Eyecatch

剣を持たぬ騎士 [8/8]

 朝日がカーテンを透かす。珍しく隣にまだ、温かさがあった。
「スツルム殿?」
「んー……」
「寝坊なんて珍しいね」
「誰の所為だと……」
 布団を被り直した彼女の頭を撫で、僕はベッドから降りる。軽くシャワーを浴びて、キッチンへと向かった。
 黒騎士はオルキスを連れて何処かに行っている。特に言いつけられた事も無かったが、僕だっていつでも仕事のストックがある訳じゃない。たまには、ゆっくりのんびり過ごすのも良いだろう。
「美味そうだな」
 暫くすると、スツルム殿が匂いに誘われて起き出してくる。
「美味しそうじゃなくて美味しいの」
「ん」
 やれやれ。盛り付けがまだ終わっていないのに、もう食べ始めている。
「お前は本当に何でもよく出来るよな」
「集団行動は苦手だけどね」
 懐かしく、でも、何処か苦しい夢を見ていた。これまでに通った学校が次々と場面を変えて出てくる夢。高校なんて二つも通ったのに、結局どちらも卒業しなかったなあ。
「苦手なだけで出来ないわけじゃないだろ」
「まあね」
 人生は学校を出た後も続いて行く。早死にでもしない限りは、寧ろその後の時間の方が長い。そこでも僕は色々な事を学んで、覚えて、時には誰かの手も借りて、こうしてなんとかやっている。
「……お前、どうして剣をやめたんだ?」
 盛り付け終わって隣に座ると、そう尋ねられる。
「なあに? 今更」
「強かったのに、勿体無い」
「実戦じゃ通用しないと思ったからだよ。スツルム殿と戦ってさ」
「そう、だったのか」
「そうだよ。お弁当付いてる」
 口の端のケチャップを指に取る。そのまま指を舐めたら嫌そうな目で見られた。良いじゃない別に、もう家族みたいなもんだし。
「続けてて欲しかった?」
 こくり、と頷かれる。
「お前に勝ちたかった」
「スツルム殿が勝ったじゃない」
「あんなクソみたいなルールだらけのは駄目だ」
「ていうか、今戦ってもスツルム殿が勝つよ」
「動きを忘れた奴に勝てるのは当たり前だろ」
 そのまま続けていたドランクと戦いたかった。悔しそうに唇から漏れる言葉を、僕の唇で拾う。スツルム殿は真っ赤になって、何かぶつぶつ言いながら、焼かれたベーコンを無意味に細かく千切る作業に入った。
 そのまま続けていたら、か。実際、あのままアルビオンに残っていたらどうなっていたのだろう。流石に何処かのタイミングでちゃんと卒業して、今頃ポンメルン達の上司かな?
「そうしたら、スツルム殿と再会する事もなかったろうねえ」
「別に魔法じゃなくて剣術で傭兵やってても良かっただろ」
「うーん、それはねえ」
 僕は食事の手を止め、微笑む。
「誰かに教えてもらった型に嵌って百出来るより、自分で作った型で十出来る方が楽しいって気付いたからだねぇ」
 はぁ、と小さな溜息は昔と変わらない。
「お前の腕で『十』なんて言ったら、世間一般の魔術師は一未満だぞ」
「え~っ、スツルム殿、それ褒めてる? 褒めてるよねぇ!?」
「うるさい褒めてない!」
 剣を抜こうとしたが、そもそも提げていない事に気付いて、スツルム殿は僕をぽかぽかと叩く。僕はそれが止むまで、ただ笑ってされるがままにしていた。

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