宇宙混沌
Eyecatch

優しい嘘


「本当に何がしたいんだと思う?」
 人を探せって言ったり、試験を手伝えって言ったり。
 アルビオンに来て三日が経った。スツルム殿は授業を始めていて、まあまあ生徒からのウケは良いらしい。僕は、僕自身を探せという依頼よりマシかと、宿で試験の内容を頭に叩き込んでいた。
 卒業試験には実技しかない。定期テストで一定の点を取らないと卒業試験を受ける資格が無いから、筆記は省略されている。その代わり、剣舞から何から、実技の試験は丸一日中ある。当日は教員総出に近い。
「さあな。流石に試験官は、あたしがやるよりお前が適任だろう」
「まあ、一応一回覚えたからねえ」
 スツルム殿の剣を借りて、剣舞の手順を再確認する。間違えて覚えた所があるから、見る時も気を付けないと。試験までもう幾許もない。
「……それより、お前いつヴィーラに手紙を出したんだ?」
「へ? 何のこと?」
「? 部屋が同じなの、お前が希望したんじゃないのか?」
「え? スツルム殿が引き受ける時の返事に書いたんじゃないの?」
 スツルム殿は首を横に振る。僕は剣を下ろして顎に手を当てた。異種族の僕達が、同室に泊まるような関係に見られることは少ない。仮にそう見えたとしても、別々の部屋を宛がうのが無難だろう。
「……カタリナさんが言ったのかな」
 ヴィーラも僕の素性や、スツルム殿との関係を全て知っているのだとしたら、腑に落ちる事もある。だが益々訳が解らない事もある。
「僕がそうだと解ってるなら、単刀直入に用件言えば良いのに」
「もしかすると、お前が仕事をすることに意味があるんじゃないか?」
「仕事に?」
「お前がお前自身の足取りを辿る事。なし得なかったことに再挑戦する事」
 僕は無意味に剣を回してから、スツルム殿に返した。
「余計なお節介」
「投げ出すのか?」
「まさか。お金は貰ってるし、スツルム殿は最後までやるんでしょ」
 僕は教科書を閉じ、自分のベッドに潜る。隣のベッドに座っていたスツルム殿も、こっちの布団を捲った。

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