宇宙混沌
Eyecatch

優しい嘘


 私は闘技場に降りる。ドランクさんはスツルムさんを解放すると、私を振り返った。
「すみませんねぇ。あんまり参考にならなかったでしょ?」
「いいえ。生徒達は、社会に出ればこの様な高度な技を繰り出す魔導士も居るのだと、肝に銘じたでしょう」
 手加減してこれですか、と聳え立つ氷に溜め息をつく。
「ちゃんと融かしますよ」
「いえ、試合の内容に対する不満ではありません。ドランクさんの身体能力に惚れ惚れしてしまって」
 スツルムさんだってかなりの速さだった。それを上回る速度でちょこまかと、形振り構わず全身を使って動く姿は、魔導士といえど体を鍛える事を怠けていない証拠だ。
「そんなあ、ヴィーラさんだって此処の領主なんだから、僕よりお強いでしょう?」
 私はへらへらと笑う金の瞳を見上げる。
 この試合は、確かに私が期待していたものとは違った。私は、お姉様に「手合わせしてみたかった」と言わしめた、そして、私をお姉様に勝たせてくれた、その剣技が見たかったのだ。それを見れば、確信が持てた。
 なのに、何もかもが違う。契約書にサインされたドランクさんの筆跡は何処か無骨で、部屋に残された手記の優美な文字とはかけ離れていた。試合では、ドランクさんが剣を振るったのは最初と最後の二回だけ。それも挑発と、試合を終了させる為だ。騎士道のきの字も無い。
 ドランクさんではないのだろうか。それならそうと、さっさと見つけてほしい。私は半ば自棄になっていた。
「試してみます? 丁度、卒業試験の為に私も練習していたんです。もしドランクさんが勝ったなら、代わりに試験官をしていただくのも良いかもしれませんね」
「僕受かってないのに?」
 直後に、ドランクさんは口を手で隠して顔を逸らした。失言だった。そう態度が語っている。
「受かってない、とは?」
「受けてない、の言い間違い」
「……そうですか。でも、卒業試験の担当も足りていないんです。手伝っていただければ、とても助かります」

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