第2章:優しい嘘 [5/7]
「武器とかどうします?」
僕達は闘技場の控室で相談していた。
「僕の魔法、訓練で使うにはちょっっっと威力が強すぎるんだよね」
万が一にでもスツルム殿を怪我させたくない。だいたい、二、三発も撃てば闘技場自体を破壊しかねない。あくまで剣術試合しか想定して造られてないからね、此処。
「かと言ってスツルム殿相手に手加減なんて、こっちの命が足りないし。ここは、僕がサンドバッグ役になって、スツルム殿の実戦剣技を見てもらうのが良いんじゃないかなあ。アルビオンには魔法専攻も無いわけだし」
「そうですね……どのような試合をするかは、お任せします」
ヴィーラはそう言うと、試合開始の時間を告げて部屋を出て行く。
スツルム殿は練習試合を引き受ける条件として、決着が着くまで絶対に審判側から試合を止めないこと、を提示した。まあ、また消化不良になるのは、僕もごめんなんだけど、一体何時間戦うことになるのやら。
「あたしは真剣を、というか自前の剣を使うつもりなんだが」
「防御魔法は適宜使わせてもらうよ。僕は練習用の剣でも借りようかな」
「勝つつもり無いのか」
それはどうかな。
闘技場に出ると、観客席には三色の制服を着た生徒達が所狭しと座っていた。古い記憶と今見ている景色が重なる。あの時も、試合の相手はスツルム殿で、僕は練習用の剣を一本腰に提げていた。
「……私が学生の頃にも、こうして傭兵さんが試合を見せてくれたことがありました」
審判を務める教員が、中央に出て来た僕達を見て、ふと思い出したようにそう言った。僕達とそう変わらない年頃の男だった。
「対戦相手の生徒が反則負けで、すぐに終わってしまって、物足りなかったな……」
僕がそうだと気付いているのかいないのか、独り言のように呟いた。
「今回はレギュレーション無しですよね?」
「ええ。なるべく実戦に近い形でお願いできればと」
開始の合図が響き、生徒達のざわめきが止んだ。僕は定位置から動かないスツルム殿を見つめる。
「ちょっとちょっとスツルム殿~。いつも通りの特攻スタイルでやってよ~」
「フン、今日は回復してくれる奴が居ないんでな」
スツルム殿はジリジリと横に移動して隙を探す。ならば、と僕から仕掛けた。姿勢を低くし、前に踏み出しながら素早く剣を抜く。
当然スツルム殿は飛び退いて、当たらなかった。僕が勢いを止めようとした隙を狙って、振りかぶる。僕はそのまま床に転がって、靴の底で刃を受け止めた。金属板を仕込んであるから問題無い。
さて、魔法無しでどこまで通用するかな? スツルム殿とサシでやり合うのは、革命軍に居た時に森で戦った時以来だ。
「おっと!」
今度は薙ぐように剣を振ってきたので、素早く脚を下ろして転がり、距離を取る。スツルム殿の舌打ちが聞こえた。
「んも~僕の脚ちょん切るつもり~? 流石に切断は魔法で治せないんだけど~」
「喧しい」
もう一本、スツルム殿は剣を抜いた。僕が細工をした物で、スツルム殿が持つ僅かな魔力を吸って増幅し、切っ先から炎を出す。人に向かって使う事は滅多に無い。向こうも本気だ。宝珠を置いてきた事を少し後悔する。
氷の壁を生成して接近を拒んだ。宝珠無し詠唱無しでは細かい芸は出来ないが、それが寧ろスツルム殿を困惑させているようだ。
幾つも生成した氷の壁を回り込み、素早く背後を取る。あまりにもがら空きの背中に一瞬躊躇ったが、僕は彼女を抱きすくめるようにして、剣をその喉に添えた。
「……スツルム殿ってば、今日は僕後ろに居ないって、自分で言ったのに」
審判の試合終了の合図に重ねて囁く。
「最初から無理な話だったな。今更本気で戦うなんて」
「うん。そうだね」
僕達は二人で一つの傭兵コンビだ。
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Written by 星神智慧