宇宙混沌
Eyecatch

優しい嘘


「どうしよう~~~~」
 手配してもらった宿でベッドに転がり、顔を覆う。指導マニュアルを読もうとしていたスツルム殿は、眉根を寄せて指摘した。
「何かある、って解っててこの島に来たんじゃなかったのか?」
「それはそうなんだけどさ~。まさか自分を探してくれって依頼だなんて思わないじゃない?」
「さっさと名乗り出てやればどうだ」
「えぇ、怖くない? なんであの子、僕に会いたいんだと思う?」
「知るか」
「ヴィーラさんの話は団長さん達からも少しは聞いた事あるけど、ちょっとヤバい所あるって噂じゃない? 変な逆恨みとかだったら怖いよ~~」
「わかったから静かにしろ」
 スツルム殿は先生の仕事を全うするつもりらしい。僕も、一応臨時職員という形で、学校には出入りして良いそうだ。明日、生徒達にも紹介される。
「とりあえず、足取りを追うふりでもしてみるかぁ」
 スツルム殿の任期は一月。それまでに進展が無ければ、諦めてくれると信じて。

 翌日、僕は資料室で当時の僕自身の捜索記録を読んでいた。
 かなり注意した甲斐あり、学校を出た後の目撃情報は殆ど無い。遺書とも取れる書き置きを残した所為か、空の底に飛び降りた可能性もある、という結論で終わっていた。その前に校内でトラブルを起こし指導を受けていた事も、両親に報告されている。
「……もしかして、本当に死んだと思われてるのかな」
 だとしたら寝覚めが悪い。僕は記録を片付けると、気晴らしに外に出た。試験前とはいえ、休み時間には多くの生徒達が校庭で運動している。
 スツルム殿は今日一日はマニュアルの読み込みの続きと、他の教員の授業見学だ。僕は、過去の僕の足取りを追う体で街をうろつくか、と校門へ。
「危ない!」
 校庭の端の通路を歩いていると、そんな掛け声がある。顔を上げれば寸前にボールが迫っていた。軽く避けると、それは地に落ちて跳ね、塀に当たって戻ってくる。拾うと、ヒットを飛ばした生徒達が走って来ていた。
「ありがとうございます! あの、ドランクさんは有名な傭兵なんですよね?」
「自分で有名って言うのもなんだけど、まあ界隈では知らないって人に会う方が珍しいかな」
 ボールを返しながら答えると、生徒達は顔を輝かせた。
「僕達、実戦に興味があって! もし良ければ、お話聴きたいです!」
「またまた~。君達はちゃーんと学校に通ってるんだから、卒業したら国軍や警察に就職でしょ? 傭兵みたいな下っ端の話なんて~」
「それでも名を轟かせるなんて、凄いじゃないですか! 何処で戦う術を学んだんですか?」
 主に此処だよ、とは色んな意味で言えない。言葉を濁していると、ありがたい事にチャイムが鳴り、解放された。
「思い付きませんでした」
 安心して息をついたところで、女性の声が背後から。振り返ると、スツルム殿を連れたヴィーラが居た。
「何をです?」
「お二人の戦っている姿を生徒に見せる事です! きっと、いえ、絶対為になります!」
 僕とスツルム殿は顔を見合わせて苦笑した。どうして教育者って、思い付く事が毎回同じなんだろうね。

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