宇宙混沌
Eyecatch

優しい嘘


「リーリエ先生~稽古場の鍵がありません~」
「ええ? 鍵置き場に無いのですか? 職員室の先生に、前にどのクラスが使っていたか確認してもらってください」
「先生! ご来賓ですよ!」
「――先生! ありがとうございます、すぐ向かいます」
「……随分と忙しそうだな」
 応接室で久方ぶりに対面したお姉様は、相変わらず美しいお顔を苦笑で歪める。
「間が悪い時に来てしまったかな」
「とんでもない! いつだってお姉様が最優先です」
 応接室でお茶を出す。一息ついて、訊かれる前に説明した。
「教職員の産休や定年退職などが重なってしまって、補充が間に合っていないんです」
「大変そうだな」
「ええ。でも、授業の方は私も教えることでなんとか。それより……」
「それより?」
「……いえ、何でもありません」
「そう言われると余計に気になってしまうな。勿論、話したくないのなら構わないが」
 私は一瞬躊躇った。もう何年も前の事を今更、というか、今でも気にし続けているなんて。
 それでも、成仏させてやらなくては。私の想いも、彼がしているかもしれない後悔も。
 お姉様は彼に会った事がある。一人で抱え込んでいるよりは、状況はましになるだろう。何より、お姉様はそう頻繁にはいらっしゃらないのだし、今日を逃せば次はいつになるか。
「私が領主になって間もない頃の事です。匿名でお祝いの手紙と多額の寄付があり、お礼をしたいのですが……」
「匿名の寄付なんて珍しくないだろう? 毎回素性を突き止めているのか?」
「いえ、そんな。たまたま、私の住んでいる部屋の前の住人の方だと、部屋に残っていた手記から判った次第で」
「誰なのかは判っていて、居場所がわからない、と」
「そうなんです」
「ふむ。何という名だ? 卒業生なら、私も少しはわかるかもしれない」
 その名を口にする。紅茶を飲もうとしていたお姉様の動きが止まった。私を見て何か言いかける。
「ご存知でしょうか?」
「あ、ああ。覚えているだろうか? ほら、君に似ていると言った、先輩だよ」
 やはり、と私もカップを取る。
「だが私も居場所までは」
 お姉様は鼻の頭を触る。相変わらず、嘘の下手な方だ。そういうところが、素敵なのだけれど。
「代わりと言っては何だが、優秀な傭兵を紹介しよう」
「傭兵?」
「スツルムとドランクだ。名前くらい聞いたことはあるだろう?」
「ええ。団長さんのお知り合いですよね」
「ドランクは密偵としての腕も確かだからな」
 ドランクさんがそうなのだろうか。人探しなら普通に探偵を雇えば良いものを、わざわざ傭兵を推薦したということは。
「スツルムは剣術指導もできるし、臨時教員として雇うのはどうだろうか」
「臨時教員……確かに、教育方針のすり合わせは必要ですが、無暗に常勤を増やすよりは良さそうですね」
 悪くない話だ。スツルムさんに声をかければ、ドランクさんにも折角だから……と依頼しやすい。
「ありがとうございます。是非お願いしたいので、お姉様や団長さんの方から、お声がけいただけないでしょうか?」

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