宇宙混沌
Eyecatch

優しい嘘


 お姉様がご卒業されて間もなくの頃だったと思う。
「領主様、今月の寄付金関連のお手紙です」
「ありがとうございます。そこに置いておいてください」
 学業を熟しながらの領主の仕事は、流石の私にも簡単だとは言えなかった。けれど、弱音を吐けば事が進むわけでもない。先に手を付けていた仕事を片付けて、持ってきてもらった手紙に取りかかる。
 アルビオンは学生の街だ。普通の都市とは違い、税収は十分に見込めない。行政も、この学校の運営も、予算の多くを寄付で賄っている。
 寄付してくるのは殆どが在学生の家族や、出世した卒業生。稀に、ノブリス・オブリージュを果たすべき先に悩んだ貴族など。国家からは、属領になるのを避ける為に丁重にお断りする。
 一定額を超えて寄付してくれた人には、お礼の手紙を書く決まりになっている。手紙を読みながら、寄付額ごとに仕分けていく。半分ほど読んだ時、見覚えのある筆跡に手が止まった。
「この字……」
 何処かで。署名を探したが、匿名だった。寄付額は三十万ルピで、個人が一回に寄付する額としてはかなり大きい。お礼を出したいが、匿名ではどうしようもない。
 手紙の内容にヒントが無いか読み進める。私が領主になった事に対する祝いの言葉が書かれていただけだった。私の知り合い? 全く心当たりが無い。
 結局わからずじまいで忙しい一日を終え、帰宅する。明日の準備で本棚から必要な本を抜いていると、ぽとり、と本より小さな何かが落ちる。
 落ちた時にページが開いたそれは、昼間読んでいた文字とそっくりな筆跡で、その持ち主の名を示していた。
「……やはり生きてらしたの」
 私は手帖を拾い、埃を払って棚に戻す。
 お礼を言わなくては。寄付のことと、それから、お姉様に勝たせてもらったこと。

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