宇宙混沌
Eyecatch

僕の役に台詞は無い


「わざわざ出向いてもらって悪いねぇ。私はドナ。スツルムから話は聞いたよ。ありがとね」
 僕はギルド本部に赴くと、傭兵ギルドを取りまとめているという女性の元に通された。彼女の名前はスツルムと言うのか。女の子の名前じゃないし、偽名だろう。
「名前を聞いて良いかい?」
 また求められた。まあでも、僕も偽名くらい一つ持っておいた方が便利かもしれない。
 何か彼女の名に因んだ名前にしよう。スツルム、スツルム、スツルム……確かそんな名前の戯曲があったな。
「『ドランク』、とでも名乗っておきますかね」
「私の許可を得る事じゃないよ。でも、良い名前だね」
 にこっと笑ったドナの笑顔に、僕は何故だか苦手意識を持つ。なんだか心を見透かされている様だ。
「ギルドと言っても、名簿すら無い緩い集まりだからねぇ。除名処分や強い罰を与えられる訳じゃないんだ」
「じゃあ、スツルム殿を襲った奴は野放しに?」
「当分は懲罰的に仕事をやらないでおくよ。スツルムの方も、まだ子供だと思って大人の男をペアで付ける事が多かったけど、もう年頃なんだねえ……。暫くは男と組ませるのはやめといた方が良いね」
 心の傷もあるだろうし、まあそうなるか。昨晩そのあたりの事を考えずに誘ってしまった事を、少し申し訳なく思う。いや、でもあの調子だと傷とか別に負ってないのでは?
「お前以外とはね、ドランク。……ヴォルケ、例のを」
「はい」
 ドナの後ろで待機していたエルーンの男が、彼女の指示で一通の手紙を渡してきた。
「仕事の依頼だよ。あんたに請ける気があっても無くても、アイツの所に持って行きな」
 一瞬、何を言われたのか解らなかった。頭の中で点と点を結んでいく。
「え、本当に?」
「スツルムがそれがあんたへの礼になるからって言ってたからね。お前さんも傭兵らしいし、困ったらいつでもおいで」
 ドナに礼を言い、部屋を辞す。階段を下りている途中で彼女を見つけた。
 どんな顔をして会えば良いだろう。僕は、昨日の僕の言葉にほっとした彼女の顔を思い出した。
「スツルム殿スツルム殿スツルム殿~!」
 自分の表情筋が作れる精一杯の笑顔で呼びかける。今日から僕は「ドランク」だ。

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