宇宙混沌
Eyecatch

第2章:何も変わらない [4/4]

「兄ちゃん、綺麗な身なりしてんな」
「本当に傭兵か?」
 僕は味方にそう茶化された。身を窶せば良いのだが、そうすると女の子にモテなくなるので、小綺麗にしている。
「こう見えて、経歴五年の中堅だよ」
「その割には最近じゃねえか、見かけるようになったの」
 はは、と適当に笑って誤魔化す。そりゃそうだろう、僕がこの国に入ってから、まだ三ヶ月も経ってないし。
 作戦が開始され、僕達は森の中に散った。他の仲間が見えなくなった頃合いで、僕はポーチから目薬を出す。注せる時にこまめに注さないと。戦闘が長期化すれば、前髪を気にしながら戦わざるを得なくなる。
 と、そこで足音に気が付いた。瓶の蓋を開けようとしていた手を止めたが、間に合わない。森の木の陰から炎の刃が飛んでくる。
「あっ……」
 躱したが、瓶は落としてしまった。まあ良い、材料さえ判っていれば、幾らでも作れる。
「逃げるな!」
 低い女の声。僕は安心する。女の子相手ならまず負けない、巻けるから。
 ……と思ったんだけど。
「あっれー? こんなところまで追いかけて来れるんだ」
 速い! 女性の体格じゃ飛び越えられないような足場の悪い所も通って来たのに、追い付かれた。焦った僕は逃げるのを諦め、振り返る。なに、僕の魔法に勝てる人間なんてそうそう居ないんだから。
「やるもんだねぇ、君」
 振り返った先に居たのは、ドラフの女剣士。赤みがかった瞳が此方を睨みつけている。
 あれ? 何処かで……。
「お前……」
 が、今は戦いの最中。相手は悠長に記憶を辿る暇など与えてくれない。
 容赦のない攻撃を躱しつつ、僕は得意の話術で戦意を削ごうとする。
「君みたいな若い子がさ、自分のために、好きなように生きられないなんて、可哀そうだよ」
 彼女は怪訝な顔をした。
 またやってしまった。僕は確かに彼女よりずっと年上だけど、見た目は大して変わらないんだった。
「あたしは好きに生きている」
 返された言葉は意外なものだった。真っ直ぐな瞳。思い出せそうで、思い出せない。何か他の感情で、その時の記憶が上書きされてしまったようだ。
「家族のために何かすることを、不自由だと思ったこともない」
 家族。その言葉が逆に僕を揺さぶる。真っ直ぐな瞳が剣呑な光を宿して、僕は目が離せなくなる。
「ぶちのめすのが仕事のうちでありがたい」
 その言葉と同時に繰り出される剣戟。僕は慌てて飛び退き、水の魔法で反撃する。
 動きが速すぎる。僕は魔力が強いとはいえ、逃げ足が速い事以外は身体能力が飛び抜けて高いわけじゃない。相性的には僕の魔法の方が有利だけど、反応速度で劣っているから接近戦ではまずい。見た感じ、威力もそれなりにあるから、一撃でも食らったらまず立ち上がれなくなるだろう。
「フェアトリックレイド!」
 詠唱を使うのは久し振りだ。悪いけど、これで身動き取れない内に逃げさせてもらうよ。
「待て!」
 言われて待つ奴が居るか。
「薬を落としただろ!」
 僕は逃げようとしていた所を振り返る。彼女が小瓶を投げてよこした。確かに、僕がさっき落としたやつ。
「不意打ちなんて卑怯な真似して悪かった。お前にもう戦意が無いならこれ以上は追いかけない」
「…………」
「敵にこんな事を言うのもおかしいが、自分の事を大事にしろ。目もそうだが、心もな」
「……ありがとう」
 僕はそう言うと、彼女に突進する。想定外の動きに反応が遅れた彼女は、あっけなく僕に殴られて気絶した。
「『見透かしたような態度が癇に障る』か。僕も今、よーく解ったよ」
 僕は小さな体を抱え上げると、再び貴族の屋敷へと歩を進めた。

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