宇宙混沌
Eyecatch

第2章:何も変わらない [2/4]

 瞳の色を変える魔法薬。それを見つけたのは、ある島の雑貨屋のショーウィンドウだった。それも、年頃の少女が好んで入りそうな。
 最初に見つけた時は、左目と同じ黄色に変わる薬を買い占めてしまったので、店主やその時店内に居た子供達に白い目で見られたものだ。
 この薬は本来お洒落を楽しむ為のものらしい。カラーバリエーションは豊富だったが、左右で完全に色を揃えるには、両目に注さなければならなかった。一晩寝たり、繰り返し目を洗ったりしたら色は落ちてしまう、消耗品だった。
 雑貨屋で話を聞いたところ、魔法学校上がりの近所の主婦が趣味で売り始めたものらしく、量産している訳でもない。とは言っても、企業秘密の材料や製法を教えてもらえるはずも無く、僕は自分でその薬を解析する事にした。
 両目に注す分と、分析に使う分。消費量が増えたので、これまでにも増して足繁くその雑貨屋に通う。まだこの島には来て短いけど、さっさと成分を突き止めて自分で作れるようにしないと……。
「ねえ~買ってよお姉ちゃ~ん」
「今日は母さんの代わりに食べ物を買いに来たんだぞ。お前のおもちゃを買いに来たんじゃない」
 その日も僕は雑貨屋に向かっていた。店の前で、見慣れぬドラフの姉妹が言い争っている。
「やだ~私も欲しいもん、目の色が変わる目薬。皆一つは持ってるんだよ」
「皆と同じじゃなきゃ嫌か?」
 駄々を捏ねている妹は、お洒落に目覚めたのか、癖毛を細かく編み込んだり、歩きにくそうな飾りの付いた靴を履いていたり。それを宥める姉は、髪こそ長いものの、腰には剣を差している。
 雑貨屋に歩を進めれば、当然彼女達の会話もはっきり聞こえるようになる。俯いて小さく溢した妹の言葉を、店の扉を開けようとしていた僕の耳も拾った。
「……学校で『貧乏』っていじめられるの、やだ」
「……お嬢さん」
 僕は声をかけていた。ノブレス・オブリージュ。うちは裕福なのだから貧しい人達には施しをしなければ。外に出た事がなかった僕も、両親が頻繁に慈善活動にどれだけのお金を出すか、時には喧嘩をしながら決めていたのを思い出す。
「何色が好き?」
「? 黄色……」
 警戒されたが、答えは得られた。僕は予定よりも一つ多く黄色に変化する薬を買おうとしたが、丁度残り一本だったらしい。買い溜めが底をついたわけじゃないし、分析に使うのには他の色でも良いか、と、売れ残り気味になっている紫色を代わりに購入する。
「はい、これ」
 店を出て渡すと、妹は飛び上がって喜び、礼を述べた。姉の方は顔色を変えて大きな声を出す。
「だ、駄目です! 貰えません! 知らない人から!」
「良いんだよ」
 言ったが、彼女は引き下がらない。
「お代を支払います」
「要らないよ」
「払います!」
 赤みがかった瞳が、僕を睨みつけるかのように見上げていた。
「……だから、いいって」
 真っ直ぐなのは解ったけど、強情で面倒くさいなこの子。僕は音を上げると、その場から立ち去る事にした。逃げる!
「あっ! ちょっと!」
 無理無理。僕、逃げ足だけはかなり速いんだから絶対追いつけな……。
 振り返った僕は目を剥く。
「えっ!? 脚速いね!?」
 嘘でしょ!? 脚の長さ全然違うよ!? 剣持ってたし、僕と同じく戦う仕事でもしてるのかな、まだ子供なのに。
「せめてお礼をするので連絡先を……」
 しかも走りながら喋ってるし。
 速さでは巻けない。そう判断した僕は目眩ましの魔法をかけ、路地に逃げ込む。彼女がその前を通り過ぎたのを確認して、ほっと一息吐いた。
 その喉に冷たい刃の感触がした。

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