他人行儀 [4/4]
恋人か。恋人だって。
魔法が解けた今の方が混乱している。僕はスツルム殿の体温が僅かに残る毛布を頭まで被った。
いつからそのつもりだったんだろう。なんか変な勘違いさせちゃったかな。
己の言動を顧みても、添い寝以外は心当たりが無い。外で手を繋いだこともないのに。
抱けと言われたとて、まさか仕事の同僚を、ましてや少女を本当に抱く訳にもいかず。スツルム殿との最初の同衾を何事も無く果たした後、自分は別に欲の発散が必須では無かった事に気が付いた。一人で眠ると夢見が悪いのが怖かっただけだ。
だから添い寝は体を触れさせない事がほとんどで、寒い日なんかに身を寄せる程度。ああ、時々明け方に目を覚ますと、スツルム殿が僕のパジャマにしがみついてる事があるかな、可愛いよね。
僕は店に落とすお金が浮くし、スツルム殿も個室よりは宿代が浮く。互いにメリットがあったから、そのままずるずると続けてしまった。恋人を名乗れる程の何かを彼女にしてあげた訳じゃない。
だからそんなんじゃないよって言ったのに。
「あ~~~~」
まずったな、と思った時には時既に遅し。
最初からスツルム殿はそのつもりで。そう考える方が辻褄が合う。
だとしたら、僕の返答は最低最悪の誤解を引き起こしたのでは。
僕は飛び起きると、髪の毛を適当に結い上げて、スツルム殿を探しに街に出た。
「スツルム殿」
案外早く見つかった。宿の近くの公園で素振りしていた彼女に声をかける。
「寝てろって」
スツルム殿は剣を下ろして目を逸らす。早朝の公園には人もまばらで、その視線の先にはただ芝生が広がっているだけだ。
「スツルム殿、僕の事好きなの?」
「はあ?」
良い歳こいてどんな告白の仕方だよ、と自分でも思った。でも、僕の人生においては、僕を好いてくれた人があまりにも少ない。自己肯定感の低さに自己嫌悪しつつ、返答を待った。
「……好きじゃなかったら、一緒に寝たりしないだろ」
もじもじとしながらも、はっきりと聴こえた言葉に、心が軽くなる。
「そっか……そうだよねえ……」
「お前はそうじゃないみたいだが」
「あ、その、それはごめん」
その言い方も悪かったようで、スツルム殿はぴくりと肩を震わせる。慌てて側に寄り、跪いて視線の高さを合わせた。赤い双眸に映るのは、僕の瞳だ。
「僕もスツルム殿の事好きだよ。好きだからさ、その、僕なんかがと思っちゃって……」
「お前らしいな」
その言葉に口を止める。お前らしくないな、と普通の人間は言うだろう。だって僕、普段は自信家キャラだし。
「うん……」
やっぱり敵わないなあ、と思うと同時に、いつも彼女が僕の事をどれだけ見てくれていたのかを噛み締めていた。
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