他人行儀 [3/4]
「こういう事は、好きな人とした方が良いんじゃない?」
あの時もドランクはそう言った。
仕事の後、夜な夜な歓楽街に繰り出すドランクに、そんなに気持ち良いのか、と半分は呆れ、残りは好奇心で尋ねたのが事の発端だ。返ってきた答えは、寂しさが紛れるなら誰でも良いから側に居てほしいだけ、という孤独を濃縮したものだった。
昼間あたしがずっと隣に居るのに、と腹が立った。別にドランクをそういう目で見た事はなかったし、ドランクの方もそうだったろう。それでも負けず嫌いが変な方向に発揮されて、じゃああたしとすれば良いじゃないか、なんて言ってしまった。
それが秘めたる独占欲から出た言葉だとは、日が昇ってから気が付いた。
そうして宿に入って、土壇場でドランクの口から出てきたのがさっきの言葉だ。誰でも良いって言ったのはお前だろ、とか、やめるなら部屋を取る前にしろ、とか色々怒った気がするが、結局ドランクは添い寝をするだけで手出しはしなかった。
そしてそれは、今に至っても同じだ。
「……って、恋人だから良いのか」
そう納得させる様に呟くドランクの表情は晴れない。当たり前だろう。おそらくドランクの好みでもなんでもない、歳の離れた女が恋人だと言い張っているんだ。普通でも鵜呑みにはしないし、疑り深い性格のドランクなら警戒の域に入っているだろう。
ましてや、恋人だなんて嘘八百なのだから。
「うーん、でも今日はやめとかない? 僕も魔法食らってるし……」
確かに、体調が悪いのに無理強いするのは本意ではない。それに、いざ挑んだところで、処女だとバレて益々疑いの目を向けられるのは容易に想像がつく。
「そうだな。じゃあいつも通り添い寝な」
いつも、とドランクが小さく呟いて、また余計な事を言ってしまったと苦虫を噛み潰した。
予想は的中して、目が覚めたらベッドの右半分は冷たくなっていた。
こんな事なら何処にも行くなと念を押しておけば良かった、と思ってももう遅い。急いで身支度し、朝食も鍛錬も後で良いと部屋を飛び出したところで、尋ね人と鉢合わせした。
「うわ~ごめん、怪我してない?」
体格差ですっ飛んだあたしを引っ張り起こしながら、ドランクは尋ねる。
「ああ」
戻って来てくれて良かった、と思うと同時に、何処に行っていたんだと腹が立つ。察しが良い相棒は訊かずとも答えるので、更に気に食わない。
「いやね、ああ言われても記憶が無いと不安でさ……実はスツルム殿も魔法食らってて錯乱してるのかもしれないし、後で誘拐だの暴行だの言われたらどうしようかなーって。それで眠れなかったから夜通し散歩してたんだ」
「そうか。魔法は解けたんだな」
「うん、数時間前にね。戻って来て起こすのも悪いと思って、いつもスツルム殿が起きる時間までぶらぶらしてたの」
「寝てないのか」
「まあ」
「じゃあ寝ろ」
あたしは握られたままの手を逆に掴み返し、ドランクを無理矢理ベッドに寝かせる。
「あたしは鍛練に行ってくる!」
これ以上何か言われる前に、そそくさとその場から逃げ出した。
♥などすると著者のモチベがちょっと上がります&ランキングに反映されます。
※サイト内ランキングへの反映には時間がかかります。