宇宙混沌
Eyecatch

他人行儀 [2/4]

 寝て起きたら記憶はすっかり戻っていた。武器を失くしてしまった事、ドランクに宿まで連れ帰ってきてもらった事、昨日の夕食のメニュー、魔法にかかっていた間の記憶もちゃんとある。
「ドランク」
 朝に弱い相棒を、いつもの様に揺り起こす。おはようスツルム殿、と眠そうな声と共に体を起こした。
「剣を買わないと……」
「あ、もう記憶戻ったの? 良かったけど、もうちょっとなくしてたままでも良かったな~いつもよりおしとやかだったし」
 刺そうとして、今さっき自分でも剣が無い旨、口にしたのを思い出す。
「おしとやかな女の方が好きか」
「いや、そういう意味じゃなく。なんか昨日は久し振りに一日刺されなかったなぁと……」
 慌ててフォローに入るが、あたしの胸には響かない。
 別にあたしからの評価なんてどうでも良いんだろ。恋仲じゃないんだから。

 ドランクの金の瞳が、魔物の顔を正面から捉えてしまった。ほぼ同時にドランクが何かを呟く。
 阿呆め、と思ったが昨日自分も同じ目に遭っているので、すんでのところで飲み込んだ。
「大丈夫か? あたしの事が判るか?」
「判らないけど、神経撹乱系の魔法にかかったのは解る。今、抵抗魔法を唱えてたから」
 新しく誂えた剣で魔物に止めを刺してから問うと、しっかりした返答があって安堵した。こいつの魔法の腕は信頼できる。
「自分の事は解るか?」
 聞き覚えの無い名で名乗られた。そういえばお互い、本名も知らなかったっけ。
「まあ良い。仕事は片付いた。依頼主に会いに行くぞ」
 証拠に魔物の爪を一本もぎ取って山を下る。抵抗魔法の効果か、それとも単に物分かりが良いだけか、ドランクは大人しくそれに従った。
 ……黙ってると調子が狂うな……。
「ありがとうございました! 剣の代金の足しにもならないかと思いますが、少し色を付けましたので、お納めください」
 受け取った報酬の額を確認し、満足したので礼を言って別れる。
 宿に戻ると、ドランクが昨日のあたしと同じ疑問を呈した。
「あれ? ベッド一つなの?」
 ドランク、と名乗らなかったので、少なくともあたしとの記憶は全て飛んでいる。
 ……という事は、今ここで捻じ曲げてしまえば良いんだ。
「僕達どういう関係? てっきり仕事仲間なんだと思ったけど、もしかして援助交際とか!?」
「違う」
 刺そうとしたがひらりと避けられた。明らかに引いている表情に、慌てて剣を仕舞う。
「…………恋人だ、馬鹿!」

 言ってしまってから激しく後悔した。記憶を失っている間の記憶も、この後ずっと残るのに。
 ドランクは恋人なんかじゃないと言った。それがこいつの本心なんだ。第一ちゃんと約束を交わした訳でもないし、当然だ。
 全部あたしの願望の押し付けだ。記憶が戻った後、なんて言われるだろう。都合が悪くなるとのらりくらりと躱すこいつの事だ、黙って居なくなるかもしれない。
 そう思うと、これが最後と思い詰めて、らしくなく自分から営みを強請った。

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