二人の関係 [5/6]
「な~んでボクの隊に黒騎士サマの側近が紛れ込んでる訳?」
まだ齢十八という若さで中尉の位を得た、ハーヴィンの青年が嗤った。
ドランクはしくじった。移動中に落馬し、治療の為に鎧を脱がせた所、顔が割れていたので私が呼び出された訳だ。
「お前が隊に欠員が出たと言ったから、最高責任者である私が補充をしてやっただけの事だが?」
「本当に? あの剣の腕の立つ女じゃない辺り、ボクが作ってる例の物について探りを入れたかったんじゃないの?」
フュリアスは椅子にふんぞり返る。技術者としても国内トップクラスの頭脳を持つとは聞いていたが、それよりもこの肝っ玉の方が主力武器か。
「ドランクが馬に乗れると言ったから、それだけだ」
「ハッ。乗れてないから落ちたんでしょうが、かっこ悪」
「敢えて新人に暴れ馬を与えた指揮官のミスだと思うが?」
「新人だろうがベテランだろうが、騎兵名乗るなら乗りこなせよ!」
カッとなったが、一応私の方が立場が上だ。フュリアスは歯をギリッと鳴らすと、椅子に座り直す。
「その場で殺して捨てなかっただけ有り難く思ってほしいよね。引き取るならさっさとよろしく」
帝国軍の車で家まで送ってもらう。青い顔をして飛び出してきたスツルムと共に、部屋まで運んだ。
スツルムが飲み物を取りに出て行くと、ドランクが口を開く。
「すみません……」
「落とされたんだろう?」
「うーん、まあ、はい……」
恐らくフュリアスの息がかかった部下が、馬を挑発した。咄嗟に降りて離れようとしたが、今度は服が馬具に留められていて、千切れるまで振り回される形になった。落馬後は別の馬も暴れ出した……。
「明確な殺意だな」
「本当に死ぬかと思いました……」
頭は蹴られぬよう死守したみたいだが、全身打撲や骨折で当分は立ち上がる事もできない。フュリアスは人間を駒のように使うと聞いていたが――今回の欠員も激昂して殺した所為だ――当然、部下でない者にはより一層容赦が無いか。
「私の側近だと解ったから殺さずに返しただけで、本当は身元の判らないスパイとして処分しようとしたのだろう。誰の手先かも調べずに殺してしまうのは、悪手としか言えないがな」
「もうあの中尉さんとは仕事したくない」
「機会はあるかもしれん。あれはかなり優秀だから、フリーシアは今後も取り立てるだろう」
「え~」
そこにスツルムが戻って来る。私は部屋を辞した。
「泣かないでよ~怪我はそのうち治るって」
ドアの向こうから聞こえる啜り泣き。ドランクが立てるようになったら、二人共居なくなるかもしれないな。
そう何度も何度も覚悟した。それでも二人は裏切らなかった。失意の私を助けに来てくれた。
二人はそういう生き方しか知らないのだ。そう気付いたのは、何もかもが終わった後だった。
私は二人に、その働きに見合った報酬を出せただろうか。今でもふとした瞬間にそう思う。
♥などすると著者のモチベがちょっと上がります&ランキングに反映されます。
※サイト内ランキングへの反映には時間がかかります。