二人の関係 [4/6]
「鬱陶しい」
「え~僕にもやらせてよ~」
「お前がやるとあたしより上手いから腹が立つ」
「何それ~」
暫くオルキスを連れて留守にしていた。帰って来ると、スツルムが昼食を用意する傍ら、ドランクがちょっかいをかけている。
オルキスは洗面所で手を洗うと、一度自室に戻った。私はキッチンの入り口で、二人に声をかけるか迷っている。
他人の家でいちゃつくなと言うつもりはない。今は彼等の家でもある。
しかしその姿は、今この瞬間だけを切り取れば理想の夫婦像のようで、私は二人の置かれた立場を呪った。私がそういう立場に置いている事を棚に上げて。
「スツルム殿」
あの人間不信の男が熱っぽく優しい眼差しでスツルムを見つめる。女好きの様な言動が目立つが全て嘘なのだろう。異種族だろうが見境無く手を出す様な印象をドランクに植え付ければ、スツルムがあばずれと罵られる事は減る。
スツルムは伸ばされるドランクの手を振り払わない。ただされるがままに触れ合いを受け入れる。スツルムが踏み台に乗っているから普段よりも顔の距離が近い。
ドランクの、他の誰にも向かない愛情を、その身一つで受け止めているスツルムにも恐れ入る。普通はあんなに依存されれば嫌になるか、共依存になってもおかしくない。いや、後者はまだ否定できないか。
……私も、ドランクと同じではないか?
オルキスが戻って来たとして、彼女はそれを喜んでくれるだろうか? 彼女の為に何もかもを犠牲にする私を。
「……戻った」
「おかえりなさ~い」
「え? あ、おかえり」
ドランクは気配に気付いていて、見せ付けていたらしい。食えない男だ。スツルムは油断していたようで、顔を真っ赤にしてドランクを押し退ける。
「飯が出来た。オルキスを呼んでくる」
そのまま逃げる様に出て行く。ドランクが料理を運んだ。
「お前馬に乗れるか?」
「急に何ですか? 昔は乗ってたけど……」
「エルステ帝国の騎兵隊に混じって遠征しろ」
「はいはい~お仕事ね~。僕一人の方が良いの?」
「スツルムを帝国兵として混じらせる枠が無い。尾行させるか?」
「いいや。わざわざ兵の中に紛れ込ませるなんていう危ない道提示してるんだから、尾行の方がそれよりよっぽど危険なんでしょ?」
「察しが良いな」
懐から指示書の入った封筒を出す。ドランクはスツルム達が部屋に戻って来る前に、それを服の中に滑り込ませた。
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