二人の関係 [3/6]
二人にとって、仕事とは何なのか。互いを愛するとは何なのか。
「ハァッ!」
しかし、雇った傭兵のプライベートに首を突っ込んでいる暇など無い。最高顧問としての仕事が休みの日は、計画を練り直したり、自宅に設けた運動室で鍛錬したりする日々。
カキン、と私の刃はドランクの持った剣に止められる。ドランクはそのまま受け流し、一歩遠ざかる。
「珍しいですね。相手に僕をご所望なんて」
もう半刻以上ノンストップで続けているのに、ドランクは息を乱していないどころか汗一つかいていない。かたや私は、返答も辛い所だ。
「スツルムでは……相手にならなくなったからな……」
「かと言って僕が剣術で勝てる訳無いでしょう」
それはどうだろう。実際これでは、私だってドランクには勝てない。
反撃こそしてこないが、その代わり徹底的に体力を温存している。このまま持久戦になれば、動きの多い攻方が先に音を上げるだろう。スツルムが積極的に勝ちを取りに行く戦い方をする一方で、ドランクは確実に負けない方法を執ってくるのだ。なるほど、組まれると厄介だな。
まあ、そろそろ休憩するか。私はわざと、攻撃する腕を大振りにして隙を作った。ドランクは目ざとくそれを見つけて、反撃に出る。
「って!」
「流石に目は良いな」
だが、剣を振り慣れていない者の攻撃を撥ね除ける事など造作無い。ドランクは壁に打ち付けた背中を擦りながら、床に座り込む。
「動きも素人ではないな。誰に習った?」
「内緒」
秘密主義め。追及はせず、壁際のテーブルに置いてあった水を飲む。ドランクにも勧めた。
「黒騎士様、僕に何か話したい事があるんじゃないです?」
ドランクはスツルムと違って、私に心を開かない。公私混同を避けているだけの様に見えて、その実、雇い主の私ですら信用していない。
「何故そう思う?」
「なんとなくです」
「……そうだな」
私は空になったコップをテーブルに置く。
「お前は、仮にスツルムが死んだらどうするんだ?」
「僕も死にます」
迷いの無い回答だった。
「スツルム殿も、僕の護衛だって言ってたでしょ?」
「ああ」
妙な関係だと思った。どう見ても対等な仕事仲間にしか見えなかったのに。
「スツルム殿はね、それをライフワークにしてる訳」
「運命共同体という事か」
「そ。互いの命に責任を持ってるつもりですよ。僕はスツルム殿を死なせないし、その為には僕も生きてなくちゃならない。逆も然り」
「頼もしくもあるが、理想論にも聞こえるな」
「でしょうね。人間死ぬ時は呆気なく死にますから」
それは既に何人もの死を見てきた者の言葉。
「しかし、生き延びた方が道連れになる必要は無いだろう」
「勿論。スツルム殿は僕の後を追って死ぬなんて言わないと思いますよ。でも、少なくとも僕には、スツルム殿は世界でたった一人の大切な人だし。彼女の隣しか、居場所無いし」
尻すぼみになり、珍しく本音を見せた。取り繕う事すらできないくらいの真実なのだろう。
「……お前友達も居ないのか」
「ひっど! まあそうなんですけど! ていうか、それを言ったら黒騎士様だって居るようには見えないんだけど!?」
「居た」
過去形の返答に、ドランクは耳を折る。
「すみません、なんか悪い事言っちゃったかも」
「構わん」
必ず取り返してみせるから。
「さて、もう一戦、付き合えよ」
互いの命に責任、か。
では、オイゲンはただの無責任男、という事だな。
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