二人の関係 [1/6]
初対面では、どちらも喧しいコンビだと思った。
「スツルム殿はこう見えて家事も得意ですから~」
「こう見えてとは何だ」
「痛! ちょっと、刺さないでよ!」
「お前が一言余計だからだろ!」
はあ、と溢れた溜息に、「すみません」と男の方が謝る。
「仕事中は真面目な顔してた方が良いですかね?」
「いや、構わん」
側近として雇った二人の傭兵には、四六時中の護衛も兼ねて、住み込みで働いてもらう事にした。任務が公私混同となる事は想像がつく。一切笑うな騒ぐな巫山戯るな、と言うつもりは無い。
「だが目立つ真似はよせ。本当に隠密行動も得意なんだろうな?」
「あたしはともかく、ドランクは」
女は私と同い年だった。見た目はまだ年端の行かぬ少女と言っても過言ではないが、私も若輩ながら黒騎士、そしてエルステ帝国最高顧問という身だ。年齢でその実力を推し量るほど、愚かな事は無い。
「……三ヶ月間は試用だ。役に立たないなら出て行ってもらう」
「わかってますよぉ」
「力を尽くします」
家に着く。リビングに二人を通すと、ソファに座っていた「人形」にドランクは驚いて足を止める。
「びっくりした。女の子が居るなんて聞いてませんよ」
「手を出す気か?」
「とんでもない。いや、じゃなくて、なんか……」
部屋の入り口から彼女を見遣る。異質な雰囲気を感じているのだろう。
「……いえ、何でもないです」
その間スツルムは首を傾げていた。中に入ると、自ら声をかけに行く。
「こんばんは」
「……こんばんは」
オルキスは私を見た。
「おかえり、アポロ。この人達、誰」
「今晩から住み込みで警護してもらう」
「スツルムだ」
「僕はドランク」
「スツルムにドランク。私はオルキス」
「よろしくね~オルキスちゃん」
ドランクは感じた筈の気味の悪さを押し隠して笑う。ふん、まあ演技は上手いようだ。
「悪いが部屋が足りていない。スツルムはオルキスと同じ部屋で寝てくれ」
無表情な傭兵の顔が、僅かに曇る。
「すまない、先に言っておくべきだったな。不満なら私とオルキスを同室に――」
「それって、警備の都合じゃなくて部屋数の都合なんですよね?」
「え? ああ」
言葉を遮ったのはドランクだった。
「だったら僕とスツルム殿が同じ部屋で構いませんよ。いつもそうだし」
「まさかそういう仲だったとはな」
オルキスは先に寝かせた。ドランクは風呂に入っている。リビングでは、私とスツルムがテーブルを挟んでいる。
「……ふしだらだと思いますよね。異種族の男と寝るなんて」
異種族の間には、まず子供が望めない――いや、子供が作れないから異種族と呼ぶのか。いずれにせよ、生殖を前提としない行為はただ快楽の為と見做され、世間からは白い目で見られる。
同種族の番でも、避妊をして快楽追求や愛情表現の為にまぐわう人間が大多数であるにも拘らず、だ。
「お前達の間に同意があるなら、他人が口を挟む事など無い」
「……そう言ってもらえるのは、貴重です」
そこにドランクが上がってくる。私は立ち上がると、自分の部屋に戻った。
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