二人の子供 [5/6]
「戦争よりGIGがしたいです」
「文句言うなジャスティン。丁度良い賞金首が居ないんだ。しょうがないだろう」
「俺を処刑するのはどうだ!?」
「バレンティンを処刑しても金になりませんからね」
俺の拾った犬が、同じく俺が拾った豚を蹴り飛ばした。豚は嬉しそうに当たった場所を擦りながら、もっとと強請っている。
「おい、そろそろやめろ、現場に着くぞ」
あれから十年程が経った。なんとか生き延びた俺は音楽活動をしていたが、聴衆からはあまり金を取らず、パフォーマンスで賞金首なんかを殺す事で金を得ていた。しかし有名になればなるほど、このビジネスモデルは成立しなくなっていく。GIGに誘われた賞金首が俺達の所業を知っていて、殺されるのではないかと警戒するからだ。
「着いたら後は、現場の責任者の言う事を聞けって言ってましたね」
「ああ。今回こちらの部隊は傭兵集団の筈だが、依頼主の部下でも来てるのか……っ!」
俺は先に到着していた者達を取り纏めている人物の姿が目に入った途端、息を呑んだ。うねった青い髪、黒っぽい大きな耳。あの背格好は……。
「――」
「何か言いましたか?」
思わずその名を呟いて、慌てて首を横に振る。
「あ、君達で最後だよ。早く早く」
向こうも俺達に気が付き、声をかけてくる。俺の事なんて忘れているだろうか?
「一応名前教えてー」
「ジャスティン」
「バレンティンだ」
「……ベンジャミン」
「よし、全員揃ったね。じゃあ作戦を……」
男は名簿をチェックした後、顔を上げた。その視線の先に居た俺の姿を捉える。
「……ベンジャミン……」
なんだ、お前も覚えていたか。
「どうした? ドランク」
男の隣に立っていたドラフの女剣士が尋ねる。男は詐欺師の笑みを浮かべた。
「ううん、何でもない! 作戦の説明に入るね」
そう言って傭兵集団に向き直った。まあ良い、俺も一先ずは仕事だ。
……でも、俺が此処で罪を暴いたらどうなる? 少し想像してみて、舌舐めずりをした。
今はもうネズミの声に然程興味は無い。だが、俺を好き勝手に抱いて、他の奴等にも回した男の狼狽える姿は、見てみたい。あいつの隣に居る女もどんな顔をするだろう。
「いつになく楽しそうだな、ベンジャミン」
「ァア? お前が俺を定義すんじゃねえよ」
そりゃ楽しいだろう。あの時聴き損ねた声のと再会だ。もう時効は過ぎただろうが、俺に罪を擦り付けようとした恨みだってある。
「おいおめえら」
「何ですか?」
「次のGIGの贄はあのドランクだ。金にはならねえが……」
「金にならないって……正気ですか?」
「それに、スツルムとドランクに俺達が太刀打ちできるとは思えんな」
「チッ、しょうがねえな。じゃあその代わり、この仕事が終わったら俺は暫く単独行動をする。良いな」
「はいはい、わかりましたよ」
「やっぱり俺を処刑するのはどうだ!?」
「黙らっしゃい」
「二人共静かにしろ。指示が聴こえねえ」
「えぇ、ベンジャミンが話し始めたのに……」
説明が終わり、傭兵達が散開していく。俺達も男の作戦通りの位置へと移動した。
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