ネズミの様な声を出したのは、またしても俺の方だった。
「……っ! っ!」
「学習能力無いの? 言っとくけど、僕それなりに強いんだからね?」
俺がレイピアを取り落した所で、男も俺の首を締めていた手を離す。俺が咳き込んでいる間に、男は回復魔法を使って血を止めた。なんだ、魔力が尽きたかと思ったのに。
「僕が死んでくれるとでも思ったの? 今日は現場から逃走するのを優先しただけだよ」
逃走? はは、なんだ。こいつもやはり日陰者か。
「ああ、でも面倒になった。これどうしよ……」
ぶつぶつと言いながら、男は懐から二つの丸い玉を取り出す。占いに使う水晶玉みたいだ。
「使えば足が付く……でもこれを使えば……」
男は独り言をやめない。仕事に行く気が失せた俺は、暫くその言葉を流し聴いていたが、いつの間にか眠ってしまっていた。
そして目覚めると、部屋には血の着いたレイピアだけが残されていた。
直感的に悟る。逃げなければ。
このレイピアには、昨日青い髪のエルーンが傷つけたか殺したかした奴の血が着いている。少なくともあの水晶玉のような物を、男がくすねて来たのは間違いなさそうだし、いずれ犯人探しが行われるだろう。その時にこれが俺の手元にあってはまずい。
自分の荷物をまとめようとして、気付く。普段使っていたナイフも、俺が自分の身で稼いだ金も、持ち去られていた。勿論ナイフは男に買ってもらったものだし、金づるだってあいつが見つけてきたものだが、流石に全部持ち逃げはクソだ。
クソッ、クソッ。丸腰の無一文では生きていけない。俺は仕方無くレイピアを腰に提げると、宿の窓から飛び降りた。