「お疲れ様」
朝方宿へと戻った俺に、青い髪の美丈夫が声をかける。これから仕事らしく、身支度を終えて、レイピアを磨いていた。
今日の収穫をテーブルに置き、俺はシャワーへ。上がると、男は眉間に皺を寄せながら札束の枚数を数えていた。
「毎度毎度、なんで財布に血が付いてるの?」
俺は答えない。
「殺してるよね?」
男は数え終わると、俺の後ろに立ち、髪を梳く。男の青い縮れ毛とは正反対の、真紅で真っ直ぐな髪が、本来の姿を取り戻していく。
家にいた頃、義兄が小さな手でやってくれていた事を思い出して、妙な気分になった。
「やめてよねー。折角稼げる手段があるんだから、転々と場所を変えないといけないような事は」
俺とは違い、こいつは人殺しではないらしい。魔物か何かの退治を請け負って日銭を稼いでいるようだ。
「君を紹介してるのも僕の伝手なんだからさー。怪しまれて客が付かなくなるのも困るし、払いの良い客からは何度も搾り取る方が効率が良いでしょ? 解った?」
男の手が止まる。俺は昨夜殺した男の断末魔を思い出して、ニヤニヤと笑うだけだった。男は溜息を吐く。
「まあ良いけどさ」
どいつもこいつも、人でなしだ。そう呟くと男はレイピアを手に部屋を出て行った。
「ただいま」
男は深夜に帰って来た。いつもより遅いので、てっきり今日は女を買いに行ったのだと思っていたが、違ったらしい。
男が押さえていた腕の布を外す。血でべっとりと汚れていた。勿論、返り血ではない。
「これから仕事?」
そのつもりだったが、気が変わった。既に男の顔面は蒼白で、放っておけば失血死するだろう事は、経験上予測出来た。傷が深くて血が止まらないらしい。服の破れ方からして魔物ではなく刃物による傷だ。
どうせ死ぬのなら、俺に声を聴かせてからにしてくれ。
何故回復魔法を使ったり、医者にかかったりしないのか不思議に思いつつも、俺は興奮を抑えられなかった。こんなに若い人間を殺すのは初めてだ。こいつは普段の声も良いから、どんなに良い音がするんだろう。
男が血に汚れたレイピアを置く。すかさず俺はそれを奪い取って、いけ好かない相棒の背中へと斬りかかった。