俺はただ痛みに耐えていた。しかし、時々自分の喉から漏れる、まだ声とは呼べない音がネズミの断末魔の様で、図らずも興奮したことは否めない。別に礼がしたかった訳じゃないが、好奇心があった事も否定しない。
最中、エルーンはべらべらと訊いてもいない身の上話をしていた。自分は父親がメイドに手を付けて出来た子供だの、だから正妻である育ての母親に嫌われていただの。憂さ晴らしに自分も掃除婦に手を出したら怒られて、ムカついたから父親を一発殴って家を飛び出しただの。
因果応報じゃないか。俺の様にただ話せないだけで、呪われた子供だの何だの言われた訳じゃない。
内臓の中に何か熱いものが吐き出される。股間に伸びてきた手が膨らんだ俺の物を探り当て、慣れた手付きで扱いた。自分でもろくに触った事が無かったそれは、あっけなく萎む。
「君、良ければ僕について来ない? 見た所、丸腰みたいだしさ。住はともかく衣食は面倒見てあげるよ?」
僕のやる事を手伝ってくれたらね、と囁く。悪くない取引だ。毎回あんな怪我をしていたら体がもたない。
夜も更け、硬い床の上に寝転がる。エルーンは壁際に座った状態で眠る様だ。
ふと思い付く。別にこいつと一緒に居なくても、武器や金さえ手に入れば良いのではないか?
起こさない様にそっと近付いた。まずはこのレイピアを戴こう。そして首を掻き切るか胸を貫いて殺すんだ。
だが、その目論見はあっけなく猛禽の様な瞳に見抜かれる。
「度胸だけはあるみたいだね」
首を掴まれ、壁に叩き付けられた。またネズミの様な声。俺はつい笑ってしまった。エルーンは怪訝そうな顔をして、俺を床に下ろす。
「次に寝るのを邪魔したら、容赦しないよ」
男はそれだけ言って、またさっきの姿勢に戻る。俺は確信からくる笑いを堪えながら、その隣に座って眠る事にした。
人間からもこの音が出るんだ。殺してみたいな。