不器用な二人 [4/5]
「誰も死ななかったのかい? 凄いじゃないか!」
「戦争としては負けたがな」
だから報酬もろくに貰えなかった。不貞腐れたあたしを、ドナが子供をあやす様に慰める。
「良いじゃないか、命あっての物種だからね。それに、今回はあたしも悪かったよ。敵方があんなに準備してるなんて判ってたら、最初の依頼も断ってたさ」
言ったって、過ぎ去った事は仕方が無い。次に機会があるなら、今度は今回敵国だった国に雇われたいとは思うが。
あたしはギルドを辞す。それ程遠くない場所に借りている部屋に帰ると、ベッドの上には青い髪のエルーンが寝ていた。
「あのエルーンの魔術師がずっと庇っていてくれたんだ」
「俺達まだ場数が少なくて、あんな猛攻の中突撃していく勇気が無くて……」
「敵国が魔法戦士を集めてるって噂も無かったし、偶然だがあいつが居てくれて助かった」
「ほんとほんと!」
撤退する途中、最初からこの戦いに参加していた傭兵達は口々に感謝を述べた。感謝されている当の本人は気を失っており、他の怪我人と共に補給車に載せて運ばれていた。
あたしは眉根を寄せた。こんなに人からありがたがられる戦い方ができるのに、いつも一匹狼みたいな風情で斜に構えているのは何故だ? まあ、起きてたら恩着せがましく余計な事を言って、顰蹙を買っているんだろうな。
ギルドに所属していないこいつの治療費は、今回彼に助けられた傭兵達が少しずつ出し合った。それでも、目覚めない彼を引き取る者は居ない。皆それぞれの生活があるし、命の恩人とはいえ戦場でただ一度会っただけの男。治療費を出しただけでも十分恩返しではあるだろう。
結局、顔見知りでもあるあたしが引き取る事になった。こんな事になるなら、家族の連絡先くらい聞いておけば良かった。言ったって、仕方ないが。
医者は衰弱して寝ているだけだと言っていた。体力が回復すれば目覚めるだろうと。
しかし、数日以内に目が覚めなければ、そのまま脱水と飢餓で死ぬ事になるだろう、とも。
それは困る。共同墓地に入れるにしたって、その費用や手間は、今面倒を見ているあたしに降りかかって来るじゃないか。冗談じゃない。
「……さっさと起きろ」
数時間に一回、剣の先でちょんちょん、と腕を突いてみるものの、反応は無いまま一日が過ぎる。ていうか、あたしは今日何処で寝れば良いんだ。
ソファーなんて洒落た家具がある筈も無く、あたしは旅道具から寝袋を取り出して、床で寝た。
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