宇宙混沌
Eyecatch

不器用な二人 [3/5]

 いよいよ死ぬかもしれないな。
 僕は自分が張ったバリアの向こうから次々と仕掛けられる攻撃を眺めていた。今のところ、此方の陣営に犠牲者は出ていないが、それも時間の問題だろう。
 敵の攻撃の手が速すぎる。味方で防御魔法が使える人員は僕しか居ない。時々仲間が持って来てくれる食糧や水を摂ってはいたが、三日三晩魔法を使いっぱなしでは体力の限界だ。もういつ気絶してバリアが解けてもおかしくない。
「まさか敵が予想の倍以上居るなんて」
「くそー。予定では二日で制圧できる筈だったんだが」
「どこの傭兵を雇ったんだ? こっちもギルド経由で結構まとまって雇われたのに……」
 あれは傭兵の攻撃じゃないよ。敵国――今僕達が雇われている国の相手方が、きちんと教育・訓練してきた正規軍だ。今日この日の戦争の為にね。
 そう仲間に教えてやる体力ももう無い。とっくに地べたに腰を下ろしているが、上半身を起こしているのも正直きつい。
 傭兵業を生業にした時から解っていた事だ。自分の下には数えきれないくらい戦士や策略家が居て、自分の上にも山ほど居る。そして自分より上の者と出会った時に、問答無用で殺されるのだと。
「逃げて」
 僕の言葉に、背後の傭兵達の視線が集まったのが分かった。
「僕はもうあと数時間も保たない。食糧だってもう無いでしょ。バリアの後ろを真っ直ぐ、攻撃の届かない所まで」
 言える。必要な事だけ。
「……すまない!」
「言伝があったら聞こう。家族や恋人に伝えたい事は?」
 皆が撤退する中、仲間の一人が僕の側に駆け寄ってそう言った。
 家族は居ない。友人らしい友人も居ない。僕が伝えたい相手はただ一人。伝えたい事はただ一つ。
「……傭兵ギルドに所属してるスツルムって子に……」
 目が霞む。喋るのも辛いが、彼が逃げ切るまではバリアを張っていないと。
「昨日、行けなくてごめんねって……」
 ああ、なんでそういう事言っちゃうかな。言いたかった事はそれじゃないんだけど、言伝を聞いた彼は頷いて離れてしまった。
「謝る必要は無い」
 スツルム殿の声が聞こえた。やばい、幻聴が聞こえる様になってきたか……。
「仕事を優先させるのは当然だ」
 茶色い何かが目の前に現れた。それは僕のバリアの最先端で前方の様子を窺うと、小さな体に不釣り合いな大きな剣を抜く。
「崖下からの攻撃で地の利は此方にある。行くぞ!」
 そう言って彼女はバリアを内側から抜け、剣を構えながら飛び降りた。その声に続いて、何個かの人影が同様に崖の下に消える。
 何が起こったのか理解出来なかった。僕の記憶は此処で途切れている。

闇背負ってるイケメンに目が無い。