宇宙混沌
Eyecatch

一人の夜は長し、二人の道も長し [6/6]

「お前、本当に此処に住んでるのか?」
 スツルム殿は僕の部屋を見て、驚いた様な声を出した。
「え? うん」
「生活感無さすぎ……」
「酷いなあ、綺麗にしてるって言ってよ」
「綺麗と言うか……物が無い……」
「ホテル住まいが長かったからねえ。必要最低限の物以外はすぐ処分しちゃうんだよね」
 椅子を勧めると、そこに腰を落ち着ける。一つしか無いので、僕は丁寧に整えたベッドに腰掛けた。
「自炊もしないし。正直二部屋もある家じゃなくて良かったなって思ってる」
「借り換えれば良いんじゃないのか?」
「この家の契約時に根掘り葉掘り訊かれてさー」
 まあ、僕の本名を見たら、何かワケありだと勘繰るよねえ、普通。自分で言うのもなんだけど、まず衣食住に困るような生まれじゃないし。
「何を?」
「うーん……平たく言うと、なんでこんな安い家を借りるのかって」
「……なんでって、家が無いからに決まってるだろ?」
「それはそうなんだけど」
 言葉を濁す。これ以上追及するのはやめてくれた。
「要らないものはすぐに捨てるのか」
「うん」
「あの店の女も?」
「だから、あの子はそんなんじゃないって」
 困った様に返したが、嫉妬されるのは満更でも無いし、複雑だ。
「スツルム殿は、なんで遊びに来てくれたの?」
「遊びに来いって言ったのはお前だろ」
「や、そうだけども」
 堂々巡りの会話が続く。お互い何かの機を見極めようとしている様で、そしてそれがいつなのか判らなくて、暫く踏み出せないでいた。
「あのさ」「お前」
 意を決したものの、同時に声を発してしまう。手振りで先にどうぞ、と伝える。
「いや、お前が先で良い」
 その言葉を否定しようとして、踏み止まった。此処で譲り返したら、また他愛も無いやり取りに戻ってしまう。
「……僕は、果たせなかった約束を果たしたいんだ」
 深呼吸してから、一つずつ、言葉を選んでいく。
「その為に旅をしていた。でも、これから果たしたところで、僕の自己満足にしかならないとも解ってた」
 スツルム殿は黙って僕の顔を見ている。
「君に出会って、此処[バルツ]に定住するのも悪くないかなと思った。約束を果たす事と、君と一緒に居る事は、どちらか片方を捨てないといけないんだって。でも」
 僕は精一杯の笑顔と、明るい声色を作る。拒否する権利はスツルム殿にもあるんだ。だから、怯えさせたり、同情されたりしそうな言い方は避けなきゃ。
「初めてなんだ、僕。こんなに『捨てたくない』って思ったの。一緒について来てくれないかな?」
 スツルム殿は僕から視線を外し、俯く。
 やっぱり駄目かな。そりゃそうだよね。此処はスツルム殿が生まれ育った国。スツルム殿が慕うドナさんやヴォルケや、その他沢山の人が居る町。
 よくよく考えれば、僕が一方的に付き纏ってただけだし。捨てられるのは僕かな、と覚悟を決めた時、スツルム殿が小さく呟いた。
「お前が、用心棒としてあたしを雇うなら、考える」
「ほんと!?」
 嬉しそうな声は出たが、内心は複雑だ。雇用主と傭兵の関係か……。
「報酬は要らない」
 続いて聞こえた言葉を咀嚼するのに、十秒以上かかった。報酬は要らない? いつも念入りにチェックしているスツルム殿らしくない。
「ちゃんと連絡が取りたい時に取れればそれで構わない」
 ……なんだ。そういう事か。
 僕には彼女を諦める理由を、手放す事が必要で。
 彼女は僕と生きる為の理由が、何でも良いから欲しいのだ。
「……うん、解った。ありがとう」
 僕は立ち上がり、スツルム殿の前に跪く。俯いた顔を引き寄せて、小さな口に口付けた。

「君との約束は必ず守るよ。だから、もし僕と連絡が付かなくなった時は、本当にまずい事態になってるって事だから……助けに来てね、スツルム殿」

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