一人の夜は長し、二人の道も長し [4/6]
「スツルムならもう何日も見てないよ。他所で仕事してるんじゃない?」
いつも以上に冷たく突き放すような口調に、僕は改めて嫌われている事を認識した。
「そうですか」
幸い僕の風邪は、しっかり休んだおかげかすぐに快復した。念の為熱が下がった翌日も出歩くのは控え、それからスツルム殿に謝る為にギルドへと赴いた。勿論僕はギルドメンバーじゃないから、中には入らずにいつも通り外で彼女を待ち伏せする。
しかし、一日待っても、二日待っても彼女は現れない。何かあったのではと、流石に僕も心配になって、犬猿の仲であるドナさんに様子を窺う最終手段に出たという訳だ。
「てっきりお前が連れ回してるんだと思ってたよ」
「いや、実は……」
事情を説明する。やれやれ、とドナさんは溜息を吐いて、何やらメモに書き始める。
「それ、風邪移したんじゃない? 熱出る前日に食事してるんだろ?」
「はは……」
それはあり得る。メモを書き終わったドナさんは、切り取って僕に差し出した。
「スツルムの住所。仕事じゃなかったら、出掛けてても待ってたらすぐ帰って来るだろ」
「…………」
僕は気になる事を訊いてみる。
「ギルド員が音信不通でも、様子を見に行ったりしないんですね」
「うちは緩い集まりだから。他で仕事してる事もあるし、人数も多いし。うちが紹介した仕事をすっぽかした時くらいだね、見に行くのは」
「そうですか」
「……まだ訊きたい事ありそうだね」
「まあ……。ドナさんって、結局僕達の事邪魔したいんです? 応援してくれるんです?」
「スツルムには幸せになってもらいたいけど、お前の事はどうでも良いね」
「うわあ、はっきり言いますねぇ」
矛盾しているけど、両立はする、か。
「……お前さあ」
ドナさんはギルド長の椅子に深々と座り直すと、僕の目を見る。
「私の機嫌取りなんてしなくて良いんだよ」
「……別に、僕は、」
「お前がどんな人生を歩んできて、何に怯えているのかには興味無いけどさ」
彼女は僕の言葉を遮って続ける。
「お前にだって幸せになる自由はあるんだよ」
……参ったなあ。
「僕、ドナさんのそういうところ、凄いと思うけどとっっっても苦手です」
渡されたメモに書かれた住所は、なんと僕の家の隣のブロックだった。案外、気付かないものである。
彼女の住むアパートの部屋の前で、扉を叩くのに躊躇する。いきなり押しかけて、迷惑に思われないかな?
……でも、踏み出さなければ何も掴めないのだ。誰かが何かを与えてくれるのを待っていて、欲しい物を得られた事があったか?
僕は自由だ。後悔するのは、何かを失ってからでも遅くない。二兎を追って一兎も得られなかった時に、次どうするかを考えれば良い。
僕は土産を抱え直すと、意を決した。
「スツルム殿」
扉を叩き、呼びかける。中で慌てた音がした。
「……何だ」
怒ってる。めちゃくちゃ怒ってる。部屋着姿のスツルム殿は、顔を赤くして、いつもより更に低い声で僕に問うた。
「あ、その、最近見ないからどうしたのかなって。ドナさんが住所教えてくれて」
無言で睨まれる。いや先に謝れよ、自分。
「あと、この前約束破ってごめん。熱出しちゃってさ」
「……上がれ。寒いから」
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