いや寒くない? バルツって雪降るの? マジで?
僕は曇った窓硝子を拭いて、外の様子に驚嘆した。見ているだけで寒い。
カーテンを閉めようと手を伸ばす。再び曇り始めた窓の外、家に急いでいるのか、誰かが小走りに道を行く姿が目に入った。
スツルム殿も、ちゃんと仕事を終えて、家に帰ってると良いけど。
道に落ちた窓明かりが一つ、また一つと減っていく。もうこんな時間か。
あの後、あたしは町の警官の詰め所に行き、昨夜若い男が巻き込まれる事故や事件が無かったか尋ねた。結果は芳しくない。
ついでに、青い髪のエルーンの目撃情報を訊いてみる。この辺りではエルーンは珍しいし、あいつは顔も服装も目立つから警官達も見覚えはあったらしい。
「ああ、彼なら昨夜、あっちの方向に歩いて行ったよ。いつもより二時間は早かったかな」
指し示されたのは、あたしの家がある方向だ。此処から先は夜に開いている店も減っていくし、やはり近くに住んでいるのかもしれない。なんだかんだ、あたしが奴を振り切って先に帰ったり、あいつが寄り道するせいで、最後まで一緒に帰った事ってこれまでに無かったからな。
「いつもしゃきっと背筋伸ばしてるのに、背中丸めて歩いてたから目に留まってね。具合でも悪かったんじゃないか」
「まさか」
だって、仕事もきちんとこなしてたし、食事中もぺらぺらと五月蝿かったぞ、いつも通り。それに、猫背なのもいつもの事じゃ?
警官に礼を言い、あたしは今夜の捜索は中断する事にした。一先ず、事件や事故で無いなら良い。
冷えた部屋に帰り着く。マントに積もった雪を落とした。今年は良く降るのかな。
「へっくちょい」
こんな事をしていたから、こっちが風邪を引きそうだ。あたしは風呂を沸かして、早々に寝る事にした。
……眠れない。
あたしは起き上がる。時計はもう真夜中を指している。
なのに、どうも胸がざわついて、眠りに落ちる事が出来ない。
やっぱり今夜中に奴の顔を確認するところまでやるべきだったか? いや、でも、もう手掛かりも無いし……。
早く朝にならないだろうか。そうすれば、薬屋や医者に訊きに行けるし、ドランクがまたギルド本部の前で待っているかもしれない。
なのに、今日に限って時計の針の進みは遅い。