宇宙混沌
Eyecatch

第2章:ラカムの恋路を応援する会


「ユーステス君達も呼ばれたんだねえ」
 食堂に行くと、ユーステスとベアトリクスが居た。
「呼ばれた訳じゃない。噂を聞きつけてな。危険な武器は組織の驚異でもあるし、場合によっては役立つかもしれん」
「そんなこと言って、本当はドランクとまた犬を触りに行く話をしたいだけだろ?」
 ベアトリクスが茶化すと、元々良くない目つきが更に険しくなる。おお怖い。
「因みに、例の剣に触ってみた?」
 隣に座りつつ、尋ねる。
「俺だけ特別にな。触った瞬間思考が自分のものではなくなった気がして、すぐに手を離した」
「へえ、そんな感じなのか」
「ドランクは平気だったんだってな」
 ローアイン特製パフェを食べ終わったベアトリクスが、名残惜しそうに器の底を眺めながら言う。
「うん。思考が持ってかれるのか。何を考えてたの?」
「……此処では言い辛い」
 ユーステスが立ち上がり、僕だけ来る様に指で示す。
「『此処では』って、私には教えられないのかよ!」
「俺のパフェも食べて良い」
 まだ数口しか手を付けていなかったのだろう。半分以上残っていたそれにベアトリクスが気を取られた瞬間に、僕達は足早に食堂を後にした。

「他に触ったのはスツルム殿とジャスティン君だけど……狭いしまあ良いか」
 僕達は操舵室に集まった。どうもあの剣を触った時の影響は、あまり他人には話したくないものらしい。しかし、問題の切り分けの為に、影響が出ない組にも情報共有はした方が良いとのユーステスの提案に、ラカムも渋々折れた次第だ。
「僕とアオイドス君の共通点と言えば、貴族の生まれで傭兵って所くらいだけどなあ」
 二人で肩を竦めていると、ユーステスが言いにくそうに話し始める。
「逆に俺達と、斬り付けられた相手との関係の共通点を考えてみろ」
「関係?」
 その言葉に思考を巡らせる。スツルム殿は僕を、ラカムは団長さんを、ジャスティンはアオイドスを。
「ユーステス君は直ぐに手を離したそうだけど、誰を襲いたくなったの?」
「……ベアトリクスだ」
 ああ、なるほど。
「好きな相手、か」
 ん? じゃあなんで僕は影響を受けてないんだろう。
「おかしいな、僕もスツルム殿の事好きなんだけど……」
「あー、それがだな」
 ラカムが煙草を吸おうとし、アオイドスの顔を見てやめる。歌手には気を遣うらしい。
「好きな奴の嫌な所が気になって仕方なくなるんだよ。殺したいくらいにな」
「なるほど。つまり、俺のファンは俺のGIGに不満があったし、影響を受けた者達もそれぞれ想い人に思う所があった、と」
「確かに、僕はスツルム殿の事、文句のつけようが無いと思ってるしねえ」
 スツルム殿が僕に不満なのは、解っていたけどそれなりにショックだな……。
「俺は色恋沙汰に興味が無い」
 僕を含めた三人が怪訝な顔でアオイドスを見た。
「あんな歌書く癖に?」
 ラカムが全員の気持ちを代弁する。
「君は、ミステリ作家が全員殺人を犯した事があると思っているのか?」
「一度も無いの? 恋した事」
「ある訳無いだろう。強いて言えば音楽が恋人だ」
「えっ、じゃあもしかして童……てっ」
 ラカムに地図を丸めたやつで頭を叩かれ、僕は口を閉じる。
「……とにかく、そういう事だ」
 ユーステスがその場を締め括ろうとする。折角面白い話なのに解散するのは勿体無い。僕は彼を引き留める為に口を開いた。
「ベアちゃんとはもう恋仲なの?」
「まだだ」
「へえ。因みに何が不満なんだ?」
 ラカムも好奇心には打ち勝てなかったらしい。先程僕を叩いた正義感は何処へやら、興味津々で尋ねる。
「寧ろ満足していると思っていたのか」
「まあまあ酷い言い方だね」
「良いよなお前さんは。理想の恋人が居てよ」
 ユーステス君を窘めたのに、何故かラカムの矛先が此方に向かってきた。そちらがその気なら、僕にも考えがある。
「そういえば、君達どっちも相手と恋仲じゃないんだよね? という事は、両想いになったら案外影響受けなかったりして~?」
「なっ」
「手始めにラカムと団長さんの関係を改善していくのはどう?」
「面白そうだな!」
「おい! 勝手に決めるな! アオイドスも乗るんじゃねえ。ユーステスも一言……って居ない!?」
「彼なら先程出て行ったぞ」
「フフフ」
 僕とアオイドスの二人に迫られ、ラカムの顔色が急激に悪くなっていく。でもこればかりはね、楽しいからやめられないな。
「安心してよ。ちゃんと短剣の謎についても調査はするからさ」
「勿論勝手に君の想いを漏らしたりはしないさ。よし、スカイドス。練習室で作戦会議だ」
 げんなりとしたラカムを置き去りにし、僕とアオイドスは操舵室を後にした。

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