第2話:フェリちゃんの手紙 [5/6]
「ピアノの音だ」
ジータが顔を上げる。迫力ある演奏だが、時々変な音が鳴った。
「ドランクじゃない?」
「行ってみよ」
本を置いて、イオとジータは飛び出して行ってしまう。やれやれ、と私もその後を追った。
「あれ? もうやめちゃうの?」
「うん」
イオが問うた時には、ドランクは既に立ち上がって、蓋を閉じようとしていた。
「調律しなきゃ。耳が変になるよ」
「あたし、バレンティンを呼んで来るわね」
イオはそのままグランサイファーへ。入れ替わりで、傷んだ床を修復してくれていたラカムが顔を出す。
「人が来ちまうぞ」
「かもね。ま、今ので此処に人が居るって事は村の方にも伝わったでしょ」
「人じゃなくって幽霊が居る~って言われちゃうかも?」
「はは。その可能性はあるかもねえ」
ジータが茶化し、もう弾いてもらえないとわかるとラカムを連れて昼食準備の手伝いをしに行ってしまった。
ドランクはゆっくりと椅子に腰を下ろす。私は本体の方に近寄った。
「百年近く弾いてないから流石に酷いな。このピアノは、人に見られない様にしなきゃな」
「そうだね」
「いっそ処分するか? 私も別に弾かないし」
「駄目だよ」
ドランクが優しく笑う顔は、妹にとても良く似ていた。
「……そうか。フィラの形見でもあるもんな」
「うん」
「それじゃ、私はもう少し書斎を探してみるよ」
フェリちゃんは再び階段を上っていく。そのままぼんやりとしていると、いつの間にかスツルム殿が入り口に立っていた。
「飯の準備が出来たぞ」
「スツルム殿のお手製?」
「いや。まだ厨房が使い物にならんから、今日もローアインが艇で作って持ってきた」
「なんだ~」
「文句があるなら食うな。ローアインに失礼だろ」
「文句は言ってないよ! たまにはスツルム殿の手料理も食べてみたいなーって」
「そうか」
スツルム殿は上目がちに僕を見て、それから問いを投げかける。
「良かったのか?」
「何が?」
「お前は全部知っているんだろう?」
「……まあねえ」
フェリちゃんが忘れてしまった事。此処に住んでいた家族の、本当の姿を。
「でも、所詮おばあちゃんが見てきた事の又聞きだ」
「真実を知って、お前達が幸せな気分になれる可能性は低そうに思えるんだが」
「そうかもね。まあ、どういう回答があったって、僕には後悔しか残らないとは思う」
美味しそうな匂いが廊下にまで漂ってくる。早く行こうとスツルム殿の背中を押した。
「じゃあなんで」
僕は口の両端を吊り上げる。
「現実っていうのは一つしかないからね。受け入れなきゃ」
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