「今日はどうするんだ?」
翌朝、ローアイン達が届けてくれた朝食を食べながら、カタリナが問うた。
「屋敷の掃除も十分じゃないし、実はまだ君の服が届いていなくてな。午後にはシェロカルテが持って来てくれるそうだが」
「ま、今日一日は掃除の続きと探し物だね」
「探し物?」
ドランクの答えに、イオが瞬きをする。
「遺言書。病気が流行ってたんだから、いずれ自分もって思って、曾爺さんが何か書き残してるかもしれない。大方、自分が死んだら奥さん、奥さんが死んでたらフェリちゃん、フェリちゃんが死んでたら僕のおばあちゃんに財産を相続する、って内容だと思うけど、もし違う事が書いてあったら燃やしちゃわないと」
「なるほど」
カタリナは相槌を打ってコーヒーを啜る。
「それに、その通りの内容が書かれていれば、この家の血を引くドランクが、この屋敷を使う権利の裏付けにもなるという事か」
「そ。まあ、見つかればラッキーくらいの気持ちで」
「うーん」
二時間ほど書斎を探索して、イオが口を尖らせた。
「無いわねえ、遺言書。フェリは思い当たる事無いの?」
「病が流行り出してから、あっという間だったからな」
私がセレストを呼ぶまで。
「ドランクも見つかったらラッキーって言ってたんだし、程々にして良いんじゃない?」
そう言うジータは早速本を広げている。
「すごーい、知らない魔法がたっくさん!」
「どれどれ?」
イオも手を休め、ジータの隣から覗き込む。
「昔は、魔法を習えるのは家業にしている者か、貴族くらいしか居なかったんだよ」
「そうなんだ」
「だから自然と貴族には魔導士が多くてな」
私が話していると、イオが小さな口を三日月型にする。
「ちょっとは思い出してきたの? 良かったじゃない」
「あ、ああ。そうだな……」
昔は、か。自分の名前も忘れていたのに、当時の文化まで思い出すなんて。
やっぱり、本当の名前を手に入れてしまったからなんだろうか。
僕は曾祖父の部屋を調べ終わると、次に大広間へと向かった。
サロンを開いたり、パーティーを催したりするための部屋だ。それ程大きくはないし、物を隠せる様な家具も置かれていない。
ただ、その片隅に、古びたグランドピアノがあった。