宇宙混沌
Eyecatch

第1章:ドランクを落としたいジータちゃん


「……だって! スツルム、何かドランクに弱み握られてるんじゃない!?」
「んなこと俺に言われても……」
 私は操舵室でラカムを相手に情報を整理していた。窓から空を見ていたらしいルリアも居る。
「だって、ドランクに絡まれてる時、スツルムは心底嫌そ~な顔してるじゃん! 絡まれて鬱陶しかったって言ってたし! 絶対何か握られるって!」
 可愛いスツルムを脅すなんてなんて事を! 私の目的は完全にずれつつあった。
「まあ、人生生きてりゃ色々あんだろ」
「そうですよ。ドランクさん、悪い事もする人ですけど、スツルムさんの事を脅して無理矢理連れ回してるなんて……信じたくないです」
「いや、あんな合法ロリおっぱい星人の魅力に、あの胡散臭い男が耐えられる訳ないでしょ」
「ごうほうろりおっぱいせいじん……?」
「あールリアちゃん? 今のジータの言葉は忘れよう、な?」
 ったく、とラカムに溜息を吐かれた。
「ルリアちゃんに変な概念を教えるな。だいたい、その話だとスツルムは俺と大して変わらねえ歳って事になるからな」
「そんな事は解ってるよ!」
「そんなに気になるならドランクに直接訊いてこい。ほら、操舵の邪魔だ」
 私だけ追い出される。何さ、ラカムだってルリアに何かしたら許さないんだからね!

 ドランクは部屋に居なかった。グランサイファーの中を歩き回り、甲板にその姿を見つける。
「ドランク」
「ん? ああ、団長さん」
「何見てたの?」
「景色」
 掴み処の無い返答。
「隣良い?」
「どうぞ」
 風が頬を撫でていく。あれ、私なんの話をしに来たんだっけ?
「団長さんは偉いよねえ。その歳でこんな立派な騎空団を率いてるなんて」
「そんな。皆の協力のおかげ。ドランクは、私くらいの歳の時は何してたの?」
「何にもしてなかったよ。将来傭兵になって、こうしてあちこち旅をしてるなんて、想像もしてなかったなあ」
 会話の主導権を早々に握られてしまう。そうだった、スツルムの事について訊くんだった。
「へ、へえー。じゃあ、スツルムと出逢ったのはそれより後って事?」
「スツルム殿がまだ君くらいの時だね。僕はもう成人してたけど」
 ははーん。幼気[いたいけ]な少女を誑かしたな?
「コンビ組もうって、何か弱みでも握ったの?」
「人聞きの悪い。ちゃんと真正面から頼み込んだんだよ」
 そういえば、私はこいつを陥落させたいんだったと思い出す。
「なんでそんなにスツルムと組みたかったの? 勿論スツルムは強いけど、他にも相性の良い人沢山居たでしょ?」
「うーん、何て言えば良いんだろう……」
 流れていく雲を見つめる視線は、いつになく恍惚としている。
「とにかくね、僕にはスツルム殿じゃないと駄目だったんだ」
 何もわからない返答。少しがっかりして、意地悪な質問をしてみる。
「そういえば、スツルムももう結婚適齢期じゃない? 他の人と結婚して傭兵引退するーとか言われたらどうするの? 一人で傭兵続ける?」
「え……」
 ドランクが私に振り向く。
「……そんな事、考えた事も無かったな……」
 卵色の目から静かに伝う雫にぎょっとした。
「あっ、あっ、ごめん! 変な事訊いてごめんね!」
 ハンカチを差し出すと、ドランクは自分が泣いていた事に気付いていなかったようで、一瞬きょとん、としてから受け取った。
「あれ、僕泣いてた?」
「本当にごめん……。スツルムの事、本当に好きなんだ」
「この歳にもなって恥ずかしいんだけど」
 洗って返すね、と言って、ドランクは涙を拭ったハンカチをポケットに仕舞う。
「本当は僕、恋とか愛とか、そういう感情が解らないんだよね。両親は僕に対して冷たかったし、物心ついた時には、親が決めた結婚相手がいてさ。スツルム殿の事は凄く尊敬してるんだけど……」
「ちっとも恥ずかしい事じゃないよ」
 いや何それ。尊い。恋とか愛とかいう陳腐な言葉で言い表せないクソデカ感情を見てしまった。後でルナールに萌え語りするついでにネタとして提供しよう。
「二人がそれで良いコンビで居られるんだったら、とても素晴らしい事だと思う」
「ほんと? 僕も楽しくもない昔話なんかしちゃってごめんね。団長さんだからかな」
 とにかく、私はこの男を落とす事は諦めた。末永くお幸せに。

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