「……ま、一件落着ってか」
扉を挟んで、私の反対側の壁にもたれているラカムが呟いた。私と一緒に盗み聞きするとは珍しい。まあ、私も話を聴く為に部屋の前で待ってるんじゃなくて、報酬を渡す為に待ってるんだけどね。
「スツルムは辞退するって言ってんだし、ありがたく貰っとけば良いんじゃねえか?」
「そういう訳にもいかないよ。ジャミル達もドランクのお陰で助かったって言ってたし」
「俺は結構な迷惑を被ったんだがよ」
「擦り傷なら治してあげたでしょー」
納得いかなさそうな顔で、ラカムは私を見下ろす。
「お前、あの魔法使って平気なのか?」
「うん。ちょっと疲れたけど見ての通り。やっぱり私天才なんじゃない?」
「そうなのかもな」
ぼりぼりと頭を掻いたラカムが、扉を見遣る。その向こう側は急に静かになっていた。
「ジータ、やっぱり報酬を渡すのは明日にしろ」
「え、ええ?」
腕を掴まれて強引にその部屋の前から立ち退かされる。
「これからが良い所なんじゃないの!?」
「阿呆! 他人の情事を盗み聞きして楽しむ様な下世話な人間に成り下がるな!」
「うぇーーーーん。もう十分下世話で変態な自覚はあるから良い~~~」
「俺が良くない!」
ラカムはがっちりと私の腕を掴んだまま、食堂の前を通る。
「あっ、ジータ、ラカム! 今日も仲良しさんですねー」
食堂に居たルリアに声を掛けられて、ラカムはやっと手を離す。ほっとしたような、ちょっと寂しいような。
「ルリア、ジータの話し相手してやってくれ。ドランク達の部屋には近付かないようにな」
「え? えと、わかりました……」
私の名前をきらきらした瞳で呼ぶルリアを見ると、放って戻る訳にはいかないなあ。ルリアに情事を聴かせる訳にもいかないし(バレたらカタリナに殺される)。
大人しく食堂に入った私を見て、ラカムは安心した様に背を向けた。
私にもいつか、十年もの長い間一緒に組める仲間が、この艇に乗っている中から出てくるだろう。スツルムが言っていた事を思い出す。
ラカムもそうであったら良いな。なんて、一瞬思ったら恥ずかしくなったので、私はルリアの食べていたプリンと同じものを厨房のローアインに頼んだ。