第8話:ドランクを助けたいジータちゃん [6/7]
君もまた、僕を裏切るのか。そう思ってしまった瞬間、ドランクの体内を言い表しようの無い苦しみが巡った。
期待も、約束も、最初からしなければ良いのにね。裏切られる度にそう思うのに、結局暫くするとまた誰かと関係を結んでしまう自分が嫌いだった。
それを思い出してしまったのだ。この世は別に、全ての感情が揃っていた時から、生きやすい場所ではなかったという事を。
「ドランク!」
目を覚ますと、スツルムの顔と小さな部屋の天井が目に入った。おかしいな、かなり大口径の銃で胸を撃ち抜いた筈なんだけど、とドランクは内心首を傾げる。
「ったく、人騒がせな奴だぜ」
ラカムの声も聞こえた。ひょこ、とスツルムの隣に顔を出したのは、金髪の少女だ。
「あー良かった~。蘇生魔法成功してた~」
ああ、そういう事か、と納得する。どうやら、ジータが蘇生魔法を使って助けてくれたらしい。この様子だと、ドランクの目論見通り、大したダメージも受けなかったようだ。少しその才能が羨ましいと思う。
「君、ほんとお人好しだね」
「助けてあげたのにその言い方は無いでしょー」
少女はほっぺたを膨らませる。その顔が面白くて笑ってしまった。スツルムがそんな彼を見て、ぎゅっと掛け布団の端を握り締める。
「スツルム殿?」
ラカムが気を遣ってジータの肩を叩き、部屋から連れ出す。
「……ドランク、気付いてないのか?」
「何に?」
スツルムの小さな手が、ドランクの顔に伸びる。顔の右側を覆っている前髪を外した。部屋の内装が見えていた範囲が広がる。
「え? あたっ」
「おい、馬鹿!」
驚いて触ろうとして、指を突っ込んでしまう。幸い引っ掻きはしなかったが、念の為魔法で痛みを取っておいた。
「右目!」
「ああ。ジータの蘇生魔法で戻ったらしい。あたしは魔法の事は良く解らんが……」
スツルムの言いたい事は解る。感情の方も戻っていないか、と訊きたいのだろう。
「勿論」
ドランクは握り締められた彼女の手を取り、その指を解す。
「愛してるよ、スツルム殿」
十年振りに言えた言葉に、スツルム殿の顔が赤くなる。ドランクは彼女を抱き締めようと上半身を起こしたところで、いきなり頬を叩かれた。
「痛っ! えっ、なんで!?」
「ならなんで自殺なんてしたんだこの馬鹿!」
続いて剣でぐさぐさとやられる。いつもより深く刺されているような。
「だってあの状態の僕とつるんでるの、スツルム殿にとっては不毛だし苦痛でしょ?」
「馬鹿……」
今日何回目の「馬鹿」だろう。スツルムの手が止まって安堵した頭がつまらない事を考えた。スツルムは剣を仕舞い、椅子に座り直すと俯く。
「あたしは……繋がりを断ち切ってまで掴む自由なんて欲しくない」
ドランクはそれを聴いて、スツルムを引き寄せて抱き締めた。一瞬動きを固めたスツルムは、我に返ると今度はドランクの背中を叩く。
「痛い! なんで? 今の、スツルム殿も僕を愛してるって事でしょ!?」
「ちょっとは反省しろ! この馬鹿!」
口ではそう言いつつも、次の瞬間、また適当な事を言って誤魔化そうとしたドランクの唇を、スツルムの小さな口が塞いだ。
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