宇宙混沌
Eyecatch

第8章:ドランクを助けたいジータちゃん


「今日は来てくれてありがとう」
 ドランクとスツルム、ベアトリクスとゼタの四人が騎空団に合流する。ジータは全員を食堂に集めて、今回の任務の説明をした。
「ずばり! 男の人を惑わす星晶獣です!」
 ある島に突然、恐らくどこか別の島から墜落して来たらしいが、話によると、男性はろくに墜落現場に近付く事も出来ないらしい。それで、女性の割合が多いこの騎空団に話が回ってきたそうだ。
「ラカムがギリギリまでグランサイファーで近付いてくれるけど、ある程度は歩く事を覚悟しといてね」
「ちょっと待って」
 ドランクは手を挙げる。
「僕なんで呼ばれたの?」
 戦力にならない人間を雇うなんて、お人好しが過ぎる。
 ジータはコホン、と咳払いをして続けた。
「ドランクを含め、男性陣はこのまま食堂に集まって待機してもらいます。星晶獣の力は強いけど、ある程度、精神への影響を軽減する緩衝魔法が効く事が判っています。グランサイファーを泊める場所にも、多少の影響があると思うから、ドランクは此処で精神バリアを張っててください」
「なるほど」
 説明が終わると、女性陣はそれぞれ戦闘の準備をしに散っていく。ラカムとオイゲンは、ジータと共に操舵室へ。残りの男性陣はそのまま食堂に居残りとなった。
 目的地はこの島の裏側。艇が動き出してものの数分で、ドランクは体の異常を感じ始める。
「うわー、これはきっつい……」
 血液が強制的に下半身へ引っ張られる。言葉通り、男を惑わすのか。影響を和らげる為、すぐさま食堂全体に精神バリアを築く。
「ふー。一仕事終えたぜ」
 更に数分後、騎空艇が止まり、かなり辛そうな顔でラカムが食堂に入ってくる。オイゲンはそうでもなさそうだ。
「ハハ! 若ぇモンには辛そうだな!」
「オイゲンさんは平気なんだ」
「年寄りには効きにくいらしくてな。まあ、俺はテメェらの見張りさ」
「ま、団員さん達や住人達を襲いでもしたら大事だからねえ」
 魔法はかけ続けているが、それでも煩悩が無視出来ない程度に思考を奪っていく。
「う~ドラちん~。もっと強いバリアかけられねえの?」
 ローアインがトモイ、エルセムと共にテーブルに突っ伏した状態で尋ねる。
「僕、これでもいっぱいいっぱいなんだけど!?」
「すみません、お役に立てず……」
 この騎空団の数少ない男性団員の中で、最年少のジャミルがドランクに謝った。
「仕事だからねー全然気にしなくて良いよ~。って、ジャミル君大丈夫!? 思春期には刺激が強すぎるよね!?」
「はい、申し訳ございません……」
「うーん、いっそ寝てた方が良いんじゃないかな」
 ドランクはポーチから睡眠薬の小瓶を取り出す。そういう事なら、とジャミルは自分の服の中から同じ物を取り出し、それを全部飲み干した。
「えっ、それ丸一日熟睡しちゃう量だよ!?」
「大丈夫です。俺は薬物に耐性があるので、これだと、まあ、二時間……くらい……」
「……まあ、本人もプロだし大丈夫だろう」
 ラカムとオイゲンがぐったりしたジャミルを床に寝かせてやる。ドランクが意識を彼から食堂全体に戻すと、トモイが何かを思いついて大声を出した。
「つーか、逆にそういう話しちゃえば良いんじゃね?」
「超名案!」
「いいねいいねー。レディ達も出払ってるし~?」
 三人は勝手に盛り上がり始める。実害が無いから良いと思っているのか、それともいつもの事なのか、オイゲンは黙って隅のテーブルに着いた。
「あーマジ、この夏はアウギュステでキャタリナさんと激アツデートしたいっしょ~」
 若者達の妄想トークをなるべく耳に入れない様にしつつ、ドランクは心を無にする。魔法を維持するには集中力が必要なのだが、さっきからバリアの大きさが縮んできているように見えて気が気でない。緩衝させてもこの刺激なのに、バリアが崩れたらどうなるんだ?
「ところで~、ドラちんはルム殿とどこまで進んでんの?」
 ……なのにどうして話を振って来るんだ。ドランクは努めて魔法に注意を払いつつ答える。
「最後まで」
「えっ、マジ!? やっぱ付き合ってんの!?」
「付き合ってはいないよ」
「うわ、大人の関係ってやつ?」
「そういうの憧れる~。けど俺、フーちゃんとは純愛貫きたいから」
「いや、誰も聞いてねえし」
「なんで付き合ってやんねえの? つか、お互いイイ歳っしょ?」
 ローアインは暗に何故結婚しないのかと問うているのだ。
「……僕なんかに彼女を縛り付けておくのは勿体無いよ。ていうか、『ルム殿』って変な呼び方しないで」
「ドス君が付ける芸名に比べたらまだマシっしょ。って……」
 ローアインは言葉を切る。長い机の向こう側では、アオイドスも例に漏れず苦悶の表情を浮かべていた。
「うっそ、マジウケる。アオイドスも男らしい所あんじゃん」
「俺も人間だからな……トイレにも行くぞ……」
 余裕が無いのも同様で、口調にいつものキレが無い。
「アオイドスなら何て付ける? スツルムさんのあだ名」
 アオイドスは両肘をテーブルに突いて考える。
「……チイサイドス」
「それこの前ミムルメモルに付けてたじゃん」
「くっ……しかしアカイドスはラカムに付けてしまった……」
「えーじゃあギブアップっすか? ドス先輩」
「センパイ……?」
 エルセムの言葉の響きに、アオイドスは閃いた様だ。だが、直後に両手で口を押さえて、その単語が出ない様に努める。
「お? 思いついたんじゃねえの?」
「なんで黙ってるんスか?」
「ほらほら言ってみ?」
 三人に囲まれて、アオイドスは観念する。この雰囲気なら許されるだろう、と思ったのかもしれない。
「お……オッパイドス……」
 直後に騒いでいた三人が真顔になる。
「うわー退くわー」
「それはちょっとマジで無い」
「俺達は良いけど、マジファンの人達幻滅させない様に気を付けた方が良いっスよ」
「ホントホント。ドラちんからも言ってやってくださいよ」
「ま、まあ、本人の前で言うのは避けた方が良いと思うねえ」
 油断していたらまた話を振られて、バリアが揺らぐ。
「嗚呼、どうしてアカイドスの名を最初に使ってしまったんだ! どう見てもチャイロイドスなのに!」
「知らねえよ」
 黙って聞いていたラカムも、流石にその様子が面白かったのか、笑いを堪える表情で呟く。
「あーまあ、あんまりアオイドスを揶揄うな」
「ていうか、アオイドスさんマジお顔きれーっスね」
「俺ちょっと女の人に見えてきた……」
「髪、触らせてもらっても?」
「もしもーし?」
 話を聞いていなさそうな三人を見かねて、オイゲンが立ち上がる。アオイドスを彼等から助け出そうとオイゲンの手がその肩に触れた時、フッと体の熱が引いた。
「星晶獣を片付けたみたいだな」
 ローアイン達も我に返る。ラカムは騎空艇を更に墜落現場に近付ける為に食堂を出て行った。ドランクはその後を追う。
「ここまで来るのに、操舵室には団長さんがバリアを張っていたのかな?」
「ん? ああ。あいつ結構魔法のセンスがあったみたいでよ。お前が教えたんだって?」
「本を紹介しただけだよ」
 操舵室の窓から、撤収してくる女性陣が見えた。ラカムがゆっくりと地面にグランサイファーを下ろす。
「そういや、二冊目の本もこの前読み切ったみたいだぜ。良ければまた紹介してやってくれ」
「もう読んだんだ、速いね。勿論」
 ドランクは操舵室を出る。ならば、話は早い。

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