「ひゃあ!」
「わっ、ごめん!」
部屋に下着を忘れたあたしがシャワールームから出た時、丁度帰って来たらしいドランクと鉢合わせになった。慌ててタオルを体に巻き直す。
「依頼の話はどうだった?」
「ああ、やっぱり割に合わないから断ってきた」
あたしはタオルが外れないよう慎重に下着を履きながら、眉間を寄せる。じゃあその持って帰って来た荷物は何だ?
「それでさ、悪いんだけどスツルム殿、今から別行動させて」
ドランクは持って帰って来た物の一部は机に置き、他は自分の荷物の中に仕舞う。
「今から?」
「それから、遅くとも明後日の朝の艇でこの島を出る。スツルム殿」
ドランクは一旦手を止めて、ベッドに座ったあたしの覆われていない肩を掴んだ。
「一生のお願い。艇の時間まではこの宿から出ないで」
「はぁ?」
次から次へと何なんだ。何から問い質そうかと一瞬悩んだ隙に、また注文が降ってくる。
「それまでに僕が帰って来なくても君は行くんだ。良いね」
差し出されたのは、艇のチケットが一人分。
「え、ちょっと、おい!」
言うとドランクは自分の荷物を担いで出て行ってしまう。あたしは追いかけようとして、慌てて服を着に戻った。
外に出られる恰好になって、宿の前の道を見渡したが、もう彼の姿は何処にも無かった。
一旦部屋に戻ると、机の上に置かれた袋が目に入る。中を覗くと、これまでの人生で見た事が無い量の金貨や宝石、貴金属が詰められていた。
「報酬……」
多分そうだ。ドランクは仕事を請けたのだ。あたしに内緒で、独りで。
『僕が帰って来なくても君は行くんだ』
ドランクが帰って来なくても? 帰って来れないような仕事なのか?
やっぱり一人で行かせるべきじゃなかった。いや、そもそも出発前から様子はおかしかったじゃないか。あたしが此処に来たいと言わなければ……。
「ドランク!」
もう一度部屋を飛び出そうとして、なんとか思い留まった。さっきから膝も手も震えている。この状態で知らない夜道を当てもなく探し回って、何とかなるとは思えない。
とにかく、今日の所は寝よう。そう思って振り返った時、彼のベッドにマントが置かれたままになっている事に気が付いた。