宇宙混沌
Eyecatch

第2章:ドランクと許婚を見守るジータちゃん [7/7]

アラサー談義

「お。お前も練習か?」
 ラカムは銃と的を持って宿の前の広場に出た所、先客を発見する。
「ああ」
 褐色の肌をしたエルーンが、空撃ち練習をしていた手を下ろした。勿論、練習に使っている得物は「武器」とは違う一品だ。
「気にせずやってろよ、俺は急がねえからさ」
「いや、もう終わろうとしていた所だ」
 ユーステスはそう言うと、ラカムが腰を下ろしたベンチの隣に腰掛ける。ラカムは練習の前に一服しようと、ユーステスの許可を得て煙草を取り出した。
「昨夜、ジータが俺の部屋に来て、べらべらとベアトリクスの話をしてったんだが、解決したのか?」
「何故俺に訊く」
「上司なんだろ? 何処までプライベートに踏み込んでるかは知らねえが、心乱されて任務に支障が出るようじゃあ、お前も黙ってないと思って」
「一理ある。尤も、上で盗み聞きしてる当事者に訊く方が早いと思うがな」
「あっれ~? バレてた?」
 頭上からの声に、ラカムが顔を上げる。三階の部屋から青い髪のエルーンが顔を覗かせていた。
「スツルム殿、帰って来たら鍵開けてね」
 ドランクは建物の内側に向かってそう声をかけると、そのまま窓から飛び降りる。
「おいおいおい、平気なのかよ」
「傭兵を舐めてもらっちゃ困るなあ。流石に四階からはやらないけどね」
 ドランクは涼しい顔で立ち上がると、隣のベンチに座る。
「で、何が聞きたいの? 僕のスリーサイズは内緒だけど」
「んなもん興味ねえよ。つーかお前が見返りも無しに話してくれるなんて、裏がありそうで怖えな……」
「じゃあその煙草一本くれたら良いよー」
 ラカムは箱を取り出す。残り少ないが、今日買いに行けば良いかと差し出した。ドランクは一本受け取り、魔法で着火する。
「ていうか、お前吸う奴だったのか……」
「スツルム殿が禁煙しろってうるさいんだよねー。あ、勿論、スツルム殿の健康に悪いから、スツルム殿の前では吸わないけどね!」
 うわこいつまたスツルム殿って連呼した。ラカムとユーステスが同じ事を思う。
「お前、そんなんでよくベアトリクスに跪いたな……」
「いやー、僕もびっくりだよ。体が勝手に。子供の頃の習慣って怖いね」
「『お姫様』、か」
 ユーステスが薄く笑う。
「今では面影も無いな」
「え、そう? ベアちゃんは昔からあんな感じだったよ」
「ほう……」
 ユーステスの声色に、ほんの少し棘が混ざる。
「そんなに妬かなくても大丈夫だよ。昨日も言った通り、僕は昔の約束なんてどうでも良いし、ベアトリクスもいつまでも子供じゃない」
「……ああ」
「で? ラカムは?」
「は?」
 いきなり話を振られて困惑する。
「僕達は僕達の事情話したんだから、次はラカムの番でしょ~」
「事情っつったって、殆ど何も喋ってねえだろ!」
「ねえねえ、やっぱり団長さんが大きくなるまで待ってるの? 真面目~」
「人の話を聴け!!」
「僕がスツルム殿と知り合った頃、スツルム殿は今の団長さんくらいだったけど――」
 騒がしくなってきた。ユーステスは二人を置いて、そっとその場を離れる。どうせもうすぐ出発の時間だし、長居して己の心情を吐露させられるくらいなら、挨拶無しで立ち去る不愛想な男で良い。
「おいドランク!!」
 二人の声を掻き消すように、頭上から一際良く通る怒鳴り声が降ってくる。
「また煙草なんか吸って! おいそこのお前!!」
「はっはい!」
 ラカムは赤みがかった目に睨まれて姿勢を正す。
「こいつにあたしの許可無しに物を与えるな」
「こ、今度から気を付けます……」
「ごめんごめんスツルム殿~。もう吸わないから、部屋にはちゃんと入れてね? 宝珠とか置きっぱなしだし……」
「……知らん」
「ああっ、スツルム殿! 反省するから許して!」
 窓をピシャリ、と閉められ、情けない声を上げながらドランクが建物の中に戻って行く。まるで犬みたいだな。
「『大きくなるまで待ってるの?』ってか……」
 そりゃ今のあいつに手を出すのは、大人としてやっちゃいけないと思うぜ。あいつはまだ、自分の気持ちにも気付いてないからよ。

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