第2話:ドランクと許婚を見守るジータちゃん [6/7]
「ジータ! ルリア! 準備できた?」
「私は出来てるけどルリアがまだー」
「はわわ、寝坊しちゃってごめんなさい……」
「大丈夫大丈夫、それならゆっくりおいで」
翌朝。待ちくたびれたのか、部屋までやってきたゼタに事情を説明し、もう暫く待ってもらう。
「あとちょっとだから、ベアにも伝えといて」
「いや、それがさ……」
ゼタが頬を掻く。
「ベアも見当たんないのよ。ジータの所にも来てない?」
「来てないよ。まだ部屋に居るんじゃない?」
ルリアに準備が出来たら鍵を持って出てくるように伝え、ゼタと共にベアを探す。
祭が終わって一夜明け、宿も人の姿が減っていた。任務があるらしいユーステスとバザラガは、朝食の際に宿を出て行くのを見かけた。
「あ、居た居た」
ゼタが指差す先。テラスの柵に凭れかかり、指先に随分細くなった花冠をひっかけたベアトリクスが居た。視線の先には、乗り合い騎空艇の発着場へと向かうスツルムとドランクの姿がある。
「ちょっと待って」
「何よ」
私はゼタを掴んで制止する。ベアトリクスは暫く後、まだ形の残る氷を両手で粉々に砕いて捨てた。青い髪のエルーンの背中は小さくなり、もう判別できない。
「おっけ」
「いきなり何なのよ。てか、今ベアが持ってたの何か知ってる感じ?」
「知らない事になってるから内緒」
「何を知らない事になってるって?」
「うわぁ!?」
ベアトリクスがこっちに戻って来ている事に気付かなかった。
「昨日、ユーステスとスツルムって人と一緒に、隠れて見てただろ」
「気付いてたの~?」
「へへん! 私も一応、組織の人間だからな!」
「え、何? 昨日何かあったの?」
「別に! 何でもないぞ!」
「絶対何かあったでしょ! 教えなさいよー」
「嫌だ~」
ゼタに掴まれて揺さぶられるが、ベアは笑って誤魔化す。
「良いんだよ、もう。私だって、お兄ちゃんと遊んでたのは、結婚とかよく解らなかった時だしな! それに、あっちは好きな人居るみたいだし」
あ、やっぱりベアの目からもそう見えるよね? ドランクはスツルムの事が好きだって。
「……そう。アンタがそれで良いなら、あたしも一安心」
ゼタはベアの肩を離す。しかしベアは表情を曇らせた。
「私は良いんだけど、お兄ちゃんには何があったんだろ……」
「それってどういう?」
「あんな風に上っ面だけで笑う、冷たい人だったか? って」
「ベアに変な期待させると悪いから、わざとそうしてたんじゃない? ドランクって、界隈でも相手を懐柔するのが得意だって有名みたいだし、相手の心理コントロールなんてお手の物でしょ」
「だと良いんだけどさ、なんだか心を失くしたみたいな感じが……。まあ、多分私が小さかったから、昔は無理して優しくしてたんだろう、きっと!」
ベアが明るい声を作る。ルリアも用意が出来たらしく、ビィを連れてロビーに降りてきた。
「よーし! じゃあ出発!」
ゼタの掛け声とともに宿を出る。建物の前の広場で、ラカムが銃の空撃ち練習をしていた。
「おう、買い物か?」
私達に気付いて手を止める。
「うん。何か買ってきてほしい物ある?」
「煙草。と言いたいところだが、お前に頼む訳にはいかねえなあ」
「じゃあ一緒に来る?」
「お前等、どうせ服を見るんだろ? 煙草は後で自分で買いに行く」
「あっそ」
再び街へ向かって歩き出す。数歩進んだ所で振り返ると、ラカムは再び木に設置した的を睨んでいた。
ラカムって本当に真面目だな。
立ち止まった私をルリアが呼ぶ。私は返事をして、小走りに彼女達を追いかけた。
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