第2話:ドランクと許婚を見守るジータちゃん [3/7]
「ちょ、ちょっと待って」
ドランクが何事もなかったかの様に着席した後、最初に口を開いたのはゼタだった。
「ベアの家の事は知ってたけどさ、え、一体どういう関係?」
代弁してくれて助かるー。
「一言で言うのは難しい」
ベアはキスされた事に特に照れた様子は無いが、困ったように眉を下げている。
「そうだね。まあ、とりあえず婚約者って言っとけば大体合ってるよ」
ハアーーーーーーン!?!?!?
「えええええ!? ドランクが言ってた婚約者ってベアの事だったの!?」
「だから、正確に言うと違うんだけど」
煮え切らないドランクの答えに、スツルムが剣を抜く。
「痛って!」
テーブルの下で脚を刺したらしい。
「回りくどい」
「此処で明け透けに話すような事じゃないの!」
ドランクが珍しく、真面目な顔でスツルムに言い返す。
「……そうだな。今日は打ち上げだろ! さあ飲もう飲もう!」
ベアトリクスがウェイターを呼び、二人に酒を注文させる。私も、他の皆も、そうまで言われてこの場で問い質す事は出来なかった。
あと、気を利かせた店員が子供用の持ちやすいフォークをついでに持ってきたので、ドランクは左手で器用に食べてた。無念。
「この宿、おっきなお風呂があるんですね」
宴会後、宿の全体地図を眺めてルリアが漏らす。
「温泉が出るんだって。後で皆で行こうよ」
「おっ良いね~。じゃあロビーに集合ね。ベアも行くでしょ?」
「えっ? ああ、うん、勿論」
一瞬反応に遅れたその視線が、スツルムと共に部屋に戻ろうとするドランクを追っている事には、私もゼタも気付いていた。
「そろそろ聞いて良い?」
広い大浴場の端にある小さな露天風呂で、ゼタが切り出した。周囲に人は居ない。ベアは頷く。
「ドランク……って今は名乗ってるんだったか。あいつは、私の姉さんの婚約者だった」
「それでお兄ちゃんって呼んでたのか」
「まあ……。でも、姉さんは性格がきつくてさ。どうにも反りが合わなかったみたいで」
ふむ。ドランクはスツルムとは上手くやってるみたいだから、お姉様は余程だったみたいね。
「だから、私が生まれて、両親同士で改めて話し合いをしたらしい。最終的に、ドランクが年頃になった時に選ばせて、気に入ってる方の娘を嫁に、ってさ」
「なるほど。だからアンタが婚約者って言っても、『大体合ってる』わけか」
それきりゼタが黙り込む。私達も、ベアが組織の「敵」に家族を奪われたという事はゼタに聞いて知っていたから、それ以上は追求しない。
そろそろ上がろう、と立ち上がった時、ベアがぽつり、と小さく漏らした。
「姉さんはもう居ない。選ばれなくても、私が婚約者だ」
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