第2話:ドランクと許婚を見守るジータちゃん [2/7]
本編
「という事で~PSCお疲れ~!」
成り行きで参加する事となった走艇レースで準優勝した私達は、優勝賞金程とはいかないまでもそれなりの賞金を得たので、パーッと打ち上げ会を催していた。いつもよりもちょっと――いやかなりお高めで良い感じの宿の宴会場を貸し切り、騎空団の皆と、同じくレースに参加していた「組織」の人達も誘ってどんちゃん騒ぎだ。
「まずはかんぱーい!」
と言っても私はジュース。かんぱーい、と皆が返す中、一人だけ机に突っ伏したままの人物が居た。
「ほら、ちょっと、ベア。乾杯の時くらい顔上げなさい。いつまで落ち込んでんの」
「だって。決勝にも進めないとか悔しくて……」
彼女を窘めたのはゼタ。半泣きの声で返した当人はベアトリクス。組織の任務の一環で参加していたが、ベアは初戦で敗退していた。
「だから次は絶対に勝つ! 乾杯!」
泣いていたかと思うと急に顔を上げ、麦酒の入ったジョッキを差し出してくる。周囲に座っていた組織のメンバー、ゼタとバザラガ、そしてユーステスがその盃に己の器を当てて音を鳴らす。
「私も良い?」
少し遠かったので、隣に座っているバザラガの懐に入り込む様にして、私も手を伸ばす。ベアも手を伸ばして乾杯してくれた。
「今日は賞金からの奢りだから、皆好きなの飲んで食べてね!」
「……とか何とか言ってるとつけ込まれるぞ? 現にユーステスとバザラガが飲んでる酒、一番高いやつだからな」
テーブルの反対側からラカムの忠告が飛んでくる。
「え!?」
「こういう騒がしい場所、苦手そうなくせに来てるって事はそういう事だろ?」
「安心しろ。俺は量は飲まない」
「俺は二杯目以降はミルクにするつもりだ」
バザラガの向かいのゼタが吹き出す。
「今日くらいもっと飲みなさいよ」
「生憎、俺達は明日も任務が詰まっていてな」
「ゼタとベアはお休み?」
私が尋ねると、頷きが返ってくる。
「うん。あ、そうだ。服でも見に行って気分転換しようよ」
後半は自棄酒の様に麦酒を呷るベアに向かって言う。少し赤くなっているベアは頷くと、狙っている新しい服のデザインについて楽しそうにゼタに語り始めた。
「そういえば、スツルムさんとドランクさん、遅いですね」
私の向かいに座っていたルリアが、まだ空席のままの二つの椅子を眺める。ラカムが肩を竦めた。
「なんだ、あいつらも誘ったのか?」
「折角だしねー」
それに、あの後二人がどう進展したのか気になるじゃない?
噂をすれば、何やら口論をしているようなその声が聞こえてくる。
「えー楽しかったし次も出ようよー」
「駄目だ。この調子じゃ修繕費や治療費で毎回赤字だ」
「スツルム殿の腕なら、今度は賞金枠に入れるって」
「駄目と言ったら駄目」
「ドランク! スツルム!」
「やあ団長さん!」
呼びかけると、ドランクが垂れ目をふにゃりと溶かす。
「今日はお招きありがとう」
「本当に奢りなんだろうな」
「もっちろん! でも、遅いからルリアが心配してたよ」
「ごめんごめん。着替えに手間取っちゃって」
ドランクが右手をひらひらと振って見せる。包帯でぐるぐる巻きにされていた。
「はわっ、ドランクさん、どうしたんですか!?」
「クラッシュした時にちょっとねー」
「……走艇から投げ出されたあたしを庇った所為だ」
「ちょっとーそんなしんみりしないでよ。スツルム殿の顔に傷が付くよりずっとマシでしょー」
キタキタキタキター! そう、これ! そういう展開を求めてた! ていうか利き手がその状態だとお口あーん♥展開もあるよね!? 絶対見逃せない。
「……何だその顔は」
「い、いや、何でもないよ! 二人の席はそっち、ベアとユーステスの隣ね!」
「ありがと」
ドランクが礼を言い、二人は席に向かう。スツルムがユーステスに会釈して隣に座り、ドランクもベアに軽く挨拶しようとして、その動きを止めた。
「ベアにプリーツスカートは似合わないってー」
「そんなの着てみないとわからないだろ!」
「いやいや、ありえない。百歩譲って似合ったとしても、学生服に見えるって」
「ベアトリクス?」
椅子の背もたれに手をかけた状態で、ドランクが呟いた。呼ばれたベアが振り返る。
「何だよ、呼び捨てにされる筋合いなんか……」
角度的に、ベアがどんな表情をしたのかは分からなかった。でも、その顔を見たドランクが微笑んだのと、その二人の様子を見てスツルムとユーステスが怪訝そうに眉を顰めたのは見えた。
「やっぱりベアちゃんだ! 突然居なくなって僕びっくりしたんだよ。覚えてる? 森の屋敷の……」
「森の屋敷?」
ベアの声はひっくり返っていた。
「って事は、お兄ちゃん!? え、嘘、なんで傭兵なんか」
「『お兄ちゃん』???」
そのやり取りを聞いていた全員が口を揃えた。
「おいおい、ドランクはエルーン、ベアトリクスはヒューマンだろ」
ラカムが訳が分からない、と言いたげに口を挟む。
「勿論、そう呼ばれてただけだよ」
ドランクは椅子から手を離す。その場に跪いた所為で全容は見えなかったが、ベアの手を取った事は判った。
「こうしてまた会えて嬉しいよ、僕のお姫様」
幻聴か? 多分その場に居た全員が私と同じ事を思ったと思う。でも、その直後にドランクがベアの手の甲にキスをした事で、それは気の所為ではない事が判明した。
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