「……ごめん、びっくりしたよね」
「うん」
「蚊が飛んでた」
「なるほど」
「僕が団長さんの事名前で呼ばないのは、単に慣れちゃったからかな。ジータさんの方が良い?」
「うわ、私も気恥ずかしいかも」
「じゃ、これまで通りで」
「そういえば、スツルムの事はなんで『スツルム殿』なの?」
「敬意」
「私のさん付けは?」
「敬意」
「何処に違いが?」
「スツルム殿は僕より上の人という敬意。団長さんは僕の恩人という敬意」
「じゃあ他にも殿付けで呼ぶ人も居るの? 黒騎士の事は様付けだったし、依頼主は違うんでしょ?」
「そうだねえ……そもそも僕、スツルム殿に出会う前に尊敬する人とか居なかったからね」
「じゃあ今は特別なんだ」
「そ、特別」
「にひひ~」
「あは、変な笑い方」
「……あのキモい笑い方はなんだ」
「うちの団長に向かってキモいとか言うなよ」
「いや、年頃の娘なんだし、やめさせた方が良いと思うが……ラカムも見ろ」
「……ああ、あの笑い方か。あれは推しカプの良いエピソードを読んだり聴いたりして満足した時の笑い方だな」
「はあ……」
「ま、団長が変な奴だなんて今に判った事じゃねえしほっとけ。『おかしなジータちゃん』って地元でも言われてたらしいからな」