第2話:デート観戦とはいかないジータちゃん [4/4]
それは五回戦。ドランクがまたも相手を組み伏せて勝利を収めた直後の事だった。
「くそっ! 気に食わねえ!」
そう言って負けた相手が自分の持っていた剣を投げた。背を向けて舞台を降りようとしていたドランクは気付くのが遅れた。
「ぐっ……」
それはドランクの脇腹を貫通する。刺さった剣を抜こうとなおも襲い掛かってきた相手に対し、ドランクは再びナイフを出した。相手の手が剣の柄を握る前に体を捻って躱し、そのままその胸に刃を突き立てる。
「ひあぁ……」
ジータは口を覆って悲鳴を抑える。ラカムがその肩を抱いて励ました。
「今のはしょうがねえ。正当防衛だ。モニカ達も見逃してくれるだろうよ」
相手は心臓を正確に突かれて即死。ドランクも失血と痛みで膝を突いた。
「た、助けに行かなきゃ」
ジータはラカムの服を掴む。
「ああ」
二人は立ち上がり、二人が搬送される方向へと急ぐ。と言っても、怪我人を治療してくれるのは、主催者側ではなく出場者の仲間達だ。単独で此処に来た多くの選手達は、大怪我を負っても適当な場所に放置されるだけ。完全に息絶えれば会場近くの森に捨てられる。
「すみません! 通して!」
「駄目です」
二人は搬送員に行く手を阻まれてしまった。
「その人は知り合いなんです! 治療しに来ました」
「結構です。セレスト選手が負傷した時は、主催者様のお部屋にお運びするよう言い遣っていますので」
「何だと?」
「それでは」
連れて行かれる前に、ドランクは二人に気付くと蒼白な顔で振り返った。しかし、何も言わずに目を逸らす。
「……ったく、何だってんだよ……」
ラカムがジータを見下ろすと、悲しそうな顔をして震えていた。
「ジータ」
「私ね」
ぽつりぽつりと話し出す。
「ドランクの事、信じてあげたかったの。だってドランクは前に進もうとしてたから」
「ジータ……」
「でも、私の思い違いだったのかな」
何の躊躇いも無い動きだった。あの人の根底には、やはりまだ冷徹な殺人鬼の血が流れている。
「……きっと事情があるんだ。そう信じようぜ」
ラカムは彼女の背中を押す。
「戻るぞ。次はスツルムの試合だ。それが終わったらいよいよ準決勝だな」
言いながらも、ラカムも気が重い。
スツルムは恐らく勝ち進むだろう。そうすれば、次は同じく五回戦を勝ち進んだバレンティンとの対戦となる。
二人の内どちらを決勝に進めるのか。基本的には当事者同士で話し合ってもらうつもりだが、スツルムはどう思っているのだろう。さっきの騒動は控室からも見えた筈だ。
まあ、俺が考えてもしょうがないか、とラカムは頭を掻く。歩みの遅いジータの手を取って、試合開始までに着席しようと急いだ。
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