第2話:デート観戦とはいかないジータちゃん [3/4]
「何? ドランクが?」
取り締まり任務の休憩中、モニカはアオイドスから聞かされた情報に目を光らせた。
「なるほどな……」
青い髪のエルーン。それがあのドランクではないかという事は、もう何度も秩序の騎空団で話題になっていた。それでも、これまでの事件では物的証拠が足りず、彼を参考人として話を聞く事すら叶っていない。
「尻尾を出してくれるでしょうか?」
リーシャの問いに、モニカは首を横に振る。アオイドス達も、余計な事を言ってしまったと不安げな表情になった。
「今回の潜入の目的は奴の逮捕ではない。どうせ自白と状況証拠だけでは有罪には出来んからな」
「それじゃあ……」
「奴の事は当分泳がせておく。その方が我々にとってもメリットが大きいし」
観客席の方から歓声が上がる。また一つ、試合の勝敗が決したらしい。
「第一、青い髪のエルーンが起こした事件は、その殆どで被害届や捜査依頼が出されていないからな。そういうのを出しそうな人間までまとめて始末する念の入れようだ。一番裁きたい相手を積極的に捜査出来ないのは、法の抜け穴としか言いようが無い」
「……彼が捕まったら、どのくらいの罰を受ける事になるんだ?」
アオイドスが尋ねる。
「色んな国で事件を起こしているからな。合計すると懲役三百年は下らないんじゃないか?」
「死刑がある国で執行されて終わりじゃないでしょうか」
リーシャが補足した。アオイドスは浮かない顔をする。
「安心したまえ。お前達残虐三兄弟は殺害した数こそ多いが、その全てが合法だった事は確認が取れている」
三兄弟になる前の殺人がカウントされていないけどな、とアオイドスは思ったが、口には出さないでおいた。
「そう言えば、今回の情報をくれたのはバレンティンさんでしたっけ」
「ああ。競技場の場所と開催日時が解ったから、と通報があった」
「そうなのか」
アオイドス達が意外そうな顔をしたので、逆にモニカ達も目を丸くする。
「なんだ、てっきり知っていたから依頼を引き受けてくれたのかと」
「ご存知なかったんですか?」
「ええ、全く」
ジャスティンが首を傾げた。
「バレンティンが僕達に隠し事をするなんて珍しいですね」
「どうだろうか」
彼は此方から話しかけない限り、用事が無ければ話しかけてこないじゃないか。その用事も主には自分を痛めつけてくれとかなんとかだし。
故に、思えば出会う以前にどうやって暮らしていたのかも知らなければ、話そうとした事も無かった。隠していた訳ではなくても、話していなかった事なら沢山あるのではないだろうか?
「……そろそろ仕事に戻ろう」
モニカの声で、四人は再び持ち場へと戻る。アオイドスが観客席の方に向かうと、丁度バレンティンの試合が始まる所だった。
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