宇宙混沌
Eyecatch

第2章:デート観戦とはいかないジータちゃん


「さあ! トーナメント二日目が始まりました! 今日の第一戦は……」
「結局私達だけになっちゃったね」
「そうだな……」
 ジータはラカムと二人だけで観客席に座っていた。ルリアを含め、多くの団員達は目の前で行われる惨劇に耐え切れず、グランサイファーに留守番する事になった。アオイドスとジャスティンは、追い付いたモニカ・リーシャと合流し、違法賭博等の取り締まりに当たっている。
 ジータは団員の出場者やスツルムが怪我をした時の為に会場に居ないといけないが、何せこの会場は治安が悪い。昨日はスーテラが痴漢に遭ったとかで、目撃者のイオが本人以上に憤慨していた。そんな所に想い人を一人で座らせてはおけまいと、ラカムもやっと気まずさを押し殺す決意をした次第だ。
「……あのさ――」
「それにしても、まさかバレンティンがあんなに強かったとはなあ」
 ジータが話しかけたのに被せてしまった事に気付き、ラカムは彼女を振り返って続きを促す。
「う、ううん、なんでもない。それよりバレンティンね。私もびっくりしちゃった」
「そ、そうか。そうだよな。俺はてっきりあいつが『痛めつけてくれ~』って言い始めて試合にならないかと思ってたぜ」
 話している間に試合が一つ終わる。次はスツルムが出る番だった。開始十秒で勝利を掴む。
「今日は三回戦から五回戦までやって、明日が準決勝と決勝か」
「ドランクと当たらないと良いね」
「どうだかな。あいつも勝ち進んできたら、いつかどこかでは当たっちまうぞ。ま、それよりも先にうちの団員同士で当たりそうだが」
 八百長のようになってしまうが、その時はどちらが負けるか予め決めておこう、という話はしてある。
「さてさて皆様お待ちかね! 次の試合はセレストこと傭兵のドランクと、同じく傭兵のザリアの傭兵対決だ!」
「噂をすればだ」
 ラカム達は舞台を食い入るように見つめる。ドランクは昨日と同じ、頭からつま先まですっぽり覆うマントを身に着けていた。
「最初に言っておく」
 そう言ったのはドランクの対戦相手だった。ガタイの良いドラフ男だ。
「俺は降参しねえ。お前の名前は知っているが、確か魔術師だろ? 魔法の使えないこの場所で強いとは言い切れないんじゃないか?」
「……そう」
 諦めた様な、しかしどこか安堵した様な声がドランクから漏れる。
「無理にとは言わないよ。その時は、僕が勝つから」
「言ってくれるじゃねえか」
「レディー」
 ジータ達は手に汗を握って行く末を見守るしかできない。
「ファイト!」
 ドランクの袖から、透かし彫りの施された短剣が滑り落ちてきて彼の手に収まった。攻撃を仕掛けてきた相手を躱しつつ、ドランクもナイフを振り上げる。ドランクの服は、マントの下も黒一色だった。
「おーっと? これは変わった武器だ。ここで、彼をこの試合に招待した、この大会の主催者に解説をお願い致しましょう」
「主催者だと?」
 ラカム達はその人物が現れないかと辺りを見回したが、残念ながら音声放送がかかるだけだった。そう簡単にのこのことやって来る事は無いか、と二人は肩を落とす。
『招待、と言ったら彼に酷く怒られたよ。勝手に参加登録するなって』
 楽しそうな声が響く。もっと怖い人のイメージを持っていたジータは拍子抜けした。それになんとなく、どこかドランクと口調が似ている。
『彼の武器の説明だったね。あれはこの大会の為に、僕が特注で作らせたんだ。僕は彼に勝ち残ってもらいたいからね』
「主催者が参加者を贔屓するのは良くないですよ~」
『ごめんごめん。で、透かし彫りについてだけど、あれは極限まで軽くするためにそうした。彼に口止めされているから教えないけど、彼は以前、もっと比重の軽い素材でできた武器を使っていたから』
「随分親しげだな」
「だね。主催者と古い付き合いなのかな?」
「あいつの事だ。あり得るな」
 ジータも、今更ドランクが以前有名な殺し屋であった事は疑っていない。それでも、こういう話を聞くのは、彼が語ろうとしない過去を無理矢理抉じ開けているみたいで、良い気はしなかった。
「解説ありがとうございました! おっとここで試合の方に動きがあるぞ!」
 司会の声に、ジータ達は試合に集中する。それまで逃げ回る事を優先している様に見えたドランクが、反撃の手を強めたのだ。
「一気に形勢逆転か!? セレスト選手のナイフが相手の胸元を切り裂いたー!」
 ラカムは慌ててジータに目隠しをしたが、ドランクは器用にその服だけを切っていた。いや、相手が避けるのが上手かっただけかもしれない。
「あのさ」
 相手から距離を取り、ドランクが口を開く。
「君、知らないようだから教えてあげる。さっきの間合いまで入ったら僕、君の心臓を突くくらい簡単だよ」
「だから降参しろってか?」
 ドランクが頷く。対戦相手は笑った。
「だったらそうして勝ち進めば良いじゃねえか。命が惜しくてこの大会に参加してる奴は居ねえぜ」
「いや居るって」
 ラカムは呟き、ジータの目隠しを取る。いきなり触れられた上に至近距離で囁かれたジータはすっかり赤くなっていて、もう試合どころではなかった。
「同じ敗退なら命が残ってる方がマシじゃない?」
「とか何とか言って、勝てる自信が無いから降参を要求してるんだろ?」
 対戦相手が再度向かってくる。ドランクは溜息を一つ吐いて、次の瞬間、相手の視界から消え失せた。
「何!?」
 しゃがみ込んだドランクが、相手の勢いも利用してその脚を攫う。転んでうつ伏せになった相手の腕を引っ張り、背中に乗って抑え込んだ。
「ザリア選手ダウン! ワン! ツー! ……」
「見てるだけで痛くなってきた」
 毎度毎度ドランクに捕まえられるラカムは辟易した声を出した。ジータの反応が無いので、一度観戦をやめて振り返る。あの様子ではドランクが勝つだろう。
「どうしたジータ。風邪でも引いたか?」
「あっ、ごめん、ボーっとしてただけ!」
「テン! セレスト選手の勝利!」

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