宇宙混沌
Eyecatch

ギブアンドギブ


 あたしは逃げていた。窓から抜け出したのが思いの外早くバレた。
 発砲されたので、舗装された路地に逃げ込む。こんな時にドランクが居たら、目隠しの術でも何でも出してくれるのに。
「なあ嬢ちゃん、大人しく待っててくれれば悪いようにはしねえからよぉ」
 人の情事に聞き耳立てといて信用できるか。あたしは壁をよじ登って屋根の上へ。この分なら追いつかれまい。
 屋根から屋根へ飛び移っていると、相棒の言葉が思い出される。
『このクーデターがどうして起こったのか知ってる?』
『無力な人達の力となり手足となる為に』
「……ふん」
 思えば最初から変な奴だった。妙に「傭兵」の仕事に思い入れている感じで。そのくせ窮屈だと言ってみたり、それで金を稼ぐ事を嘲ったり。
 ……なんとなく解った気がする。
「だからって節操無さすぎだろ」
 あたしは溜息を一つついて、屋根を蹴る速度を上げた。

 僕は標的の城を高台の広場から見下ろす。典型的な城塞都市。中央の城の周りには二重の堀。兵士も多数……さて、どうするか。
 どうするも何も、魔法で全部壊すだけだ。城を囲む街も、この丘も、何もかも。めちゃめちゃにした後に国を作り直すのは、僕の仕事ではない。
『……死神だ』
 いつだったか、殺せと頼まれて殺しに行った人物にそう言われた。次の瞬間にはその返り血で真っ赤になっていて、本物の死神の方がまだまともな格好をしているだろうと思った。
 死神じゃなくて疫病神かもしれない。おばあちゃんは僕が移した風邪を拗らせて死んじゃった。僕が生まれた事で両親の仲も母の心も壊してしまった。
 母の絶叫が蘇る。振り返ると、そこには口を両手で覆った女性が居た。
『あなた!』
 標的の奥さんか。顔を見られたので彼女も屠ってから、依頼人の元へ。
『ありがとうございます』
 それで少しだけ息が出来る。なのに一人になって暫くすると、胸が苦しい。
 いつまでこんな事。戦えなくなるまで? 死ぬまで?
 誰かに愛されるまで?
『ドランク』
 昨夜甘えられた声が思い出される。背筋が震えた。
 駄目なんだ。違うんだ。君の愛が欲しかった訳じゃない。
 ただ与えるだけの存在で居たかった。望んで、手に入れて、ああ幸せだと感じたところで奪われるなんて堪え難いから。
 疫病神に幸せは似合わないから。
 僕は宝珠を掲げる。この距離からなら建物の崩落には巻き込まれないし、すぐに背後の整備された遊歩道に入って、中の人混みに紛れれば犯人の特定も難しいだろう。
 しかし遠いのは否めない。狙撃銃を持った衛兵に気付かれない様にしつつ、何度も撃ち込む必要がある。五秒間に十発くらいが魔法を出せる数と速度の限界だけど……集中的に一ヶ所を狙えば塔の一本くらい倒せる筈。その後の事は少し休んでから考えよう。
 詠唱しようと息を吸い込んだ時、宝珠を支えている手に何かが触れた。

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