ギブアンドギブ [3/5]
スツルム殿の気持ちは良く解っているつもりだった。
うざがられていると思っていた。だから精一杯尽くしてきた。それすら余計に鬱陶しがられても、傍に居たい僕が出来る事は限られている。
そうしたらいつの間にか惚れられていた。
嬉しかった。と同時に、怖かった。幸せなんて僕には似合わない。生まれつきそうなんだから仕方無い。
どんなに愛していたって、違う人間なのだからいつかはどちらかが先に死ぬ。
だからもう、いずれ取り上げられる幸福なんて要らないと思っていた。
思っていたのに。
『どうしてこんな簡単な事も出来ないのよ……!』
そんな言葉と共に降ってくる躾と称した暴力。物心付いた頃にはそれが日常になっていた。
両親の間にどんな事情があったのかは知らない。あの頃の僕が唯一理解していたのは、僕を愛してくれる人はもう空には居ないんだって事。
何をしても怒られるだけの日々。どうしたら愛してもらえるだろうだなんて、考える気力も消え失せていった。両親は僕が息をしている事すら疎ましがっているかの様だった。
ああそうか。息も止めてしまえば良いんだ。
僕はその日、おばあちゃんのお墓に花を供えに行きたいと言って母を連れ出し、そして……そして、彼女の目の前で崖から空の底へと飛び降りた。
これで満足でしょう。そう思ったのに、彼女の絶叫が今も耳に残っている。
運が良かったのか悪かったのか、僕は島のすぐ下をこっそりと航行していた盗賊団の騎空艇に墜落した。全身の骨が砕けたけど、まだ生きていた僕を頭領は気に入ってくれた。まあ、怪我が治ったら死ぬ程こき使われたんだけど。
魔法は、本は盗んでも金にならないから好きに持って行け、と読み放題だったのでそこで知識を得た。母は僕を出来損ないだとよく罵っていたけど、自分で思うにまあまあ記憶力は良い。
そのうち頭領が死んで、次の頭を誰にするかのどさくさに紛れて僕は艇を降りた。生まれて初めての、本当の自由だった。
元々頑丈な体みたいだし、盗賊団で鍛えられた筋力や肝っ玉もある。そして辿り着いたのが、傭兵、という職業だった。
傭兵は盗賊のようなものだ。全ては金、金、金。でも決定的に違う事がある。
『ありがとうございました。助かりました』
それは依頼人が居る事だ。盗賊は自分の為に盗みを働く。傭兵は、誰かに頼まれて働く。
それが法に触れていようがいまいが関係無い。盗みだろうが殺しだろうが、仕事を熟せば雇い主は必ず喜んでくれる。
いつしか金の為ではなく、感謝の言葉から得られる充足感を求めて仕事をするようになった。
僕は要らない人間じゃないんだ。一時だけでもそう思えるから。
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