ギブアンドギブ [2/5]
目覚めるとドランクはもう居なかった。
止められなかった。
いや、そんな事を言っている場合じゃない。
あたしは身支度を済ませると、飾り彫りが施された扉を開け、部屋の外を覗く。ドアのすぐ側には、武装した男が数人立っていた。
傭兵は何でも屋みたいなものだ。だからと言って、金さえ払ってもらえれば何でもする訳じゃない。
その身一つで空を飛べ、なんて飛翔術が使えないあたし達には無理だ。金を払うからその腕を一本よこせ、というのも承諾出来ない。
だからあたしはその仕事を断った。
だけどあいつはその仕事を引き受けた。
それは価値観の差なのだろう。彼の根底に流れる厭世観の仕業だろう。
だからって、特攻テロの実行犯なんて。
当然その場で説得した。いつもならあたしの気が乗らない仕事には一人で行ってもらうが、生きて帰る算段の無い依頼だけは駄目だ。
だいたい依頼主も依頼主だ。金を払うから命を捨てて来いなんて。もちろん依頼主が直接「死ぬ気で行け」と言った訳じゃないが、計画を聞けばあたし達が捨て駒である事くらい、ドランクにも判断がついている筈だ。
『落ち着いてスツルム殿』
依頼主が用意した宿に入ってから、逆に諭される。こういう時だけやたらと穏やかな喋り方をするのがずるいと思った。
『僕達なら死なないと思われてるから頼まれたんだよ』
『死なない「かも」だろ。死んでくれたら報酬を払わずに済むから、そっちの方が良いと思われてるに決まってる』
『まあまあ。それより、スツルム殿も計画の内容結構聞いちゃったじゃない? タダじゃ逃してもらえないよ』
『そこをなんとか逃げる方法を考えるのがお前の役割だろ!』
『僕は依頼主に協力したいと思ってる』
『ドランク!』
それに、どんな大義名分があろうが、テロリストはテロリストだ。それに加担して、無辜の人達を、子供も老人も関係無く殺して回るのがお前の「傭兵業」なのか?
『スツルム殿の言いたい事も解ってるよ。でもさあ』
ドランクの金の目はあたしを見ない。
『僕は無力な人達の力となり手足となる為に、傭兵やってるんだよねえ。それはスツルム殿も同じでしょ?』
「昨夜は随分色っぽい声出してたな」
「良いねえ、善がってりゃ旦那が稼いで食わせてくれるんだからよぉ」
男達が下品な笑みを浮かべる。こいつら、夜の内から見張ってたのか。
「あたしもいつもは一緒に仕事してる」
「今回は留守番だろ。計画の詳細を知られてる以上、嬢ちゃんには此処で大人しくしててもらわねえとな。青い髪の兄ちゃんにも、お前さんは現場に来させるなって念を押されてるし」
「ドランクに?」
「頼り甲斐があると言えば聞こえは良いが、悪く言えば自信過剰に見えるよなあ。相棒の手助けは要らねえってか」
「…………」
「おっと、そうだ朝飯だな。持って来てやるから中で待ってな」
「……わかった」
あたしは扉を閉める。
わかった、訳ないだろ馬鹿。
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