宇宙混沌
Eyecatch

イマジナリーフレンド [5/5]

「ベアちゃん、『ベンジャミン』はどうしたの?」
 ベアトリクスはきょとんと首を傾げただけだった。
「ベンジャミンなら此処で溶けてるじゃん」
「呼んだかスカイドス」
「あーごめん、君の方じゃない」
「どの方だよ」
「覚えてないなら良いよ」
「何だよそれ、気になる!」
 ベアトリクスは立ち上がり、僕の肩を掴んで揺さぶる。
「そういや、アオイドスは覚えてないの?」
 赤子の時からの映像記憶が殆どあるらしい彼が、ベアトリクスの事だけ都合良く忘れているとは思えない。
「話を逸らすな!」
「関係ある話だから。とりあえず揺さぶるのやめて」
 ベアトリクスは椅子に座り直す。アオイドスは眉根を寄せて僕を見た。
「何をだ? 新作の歌詞ならもう飛ばないが」
「バテてるように見えて結構元気だね? 君の婚約者の事だよ」
 アオイドスは暫し目を瞑って、黙り込む。全て憶えているからと言って、いつでもすぐに利用できる訳ではないらしい。
「……揺り籠の中の白いふわふわなら。まあ、何もかも俺が悪い」
「ああ、うん、ごめん。君を責める意図は無かったんだけど……」
「だから何の話~?」
 再び揺さぶられそうになったが、タイミング良くユーステスが入って来て、僕の隣に座る。
「暑いな」
「暑いね」
「エムブラスクも冷や水飲みたいって!」
「後でたらいに水でも張ってやれ」
「そうする!」
 流石は今彼、ベアトリクスの扱いに手慣れている。
「フラメクは暑くないのか?」
「『暑いが水は錆びるから無理』だそうだ」
「銃も大変だなー」
 僕はアオイドスと顔を見合わせる。ユーステスは稀に無表情で冗談かましてくるから、今のが本当か嘘か区別がつかない。
「何の話をしていたんだ?」
「いや、ドランクがベンジャミンはどうしたって……」
「そこで溶けている」
「だろ!?」
 僕は苦笑した。ベアトリクスにイマジナリーフレンドが居た、という話自体が、幻になってしまったみたいだ。
 だってもう、みんな死んでしまったのだもの。

闇背負ってるイケメンに目が無い。