宇宙混沌
Eyecatch

アポロ


「思ってたよりも厄介な事になってたねえ……」
 僕達はアマルティア島で、やっと例の騎空団の面子の姿を捉える。
 僕達の力だけじゃ、帝国やら秩序の騎空団やらの相手をするのは到底無理だった。宰相の周りも嗅ぎ回ってみれば、胡散臭いとよく言われる僕ですら真っ青になるくらい、胡散臭すぎる情報が出るわ出るわ。そして、アポロをあの島から救い出すには、例の騎空団が連れている、ビィとかいう不思議な生物の力が必要だという事も判明した。
「はー……お腹減ったね。その辺の民家に食べ物無いかな」
 彼等と接触する前に、少しでも不安感や体の不調はなくしておきたい。合流したら、今度こそ本当に死ぬかもしれない戦いになる事は予想できた。相対する敵は騎空団かもしれないし、帝国かもしれないし、或いは、それよりももっと大きな何かかもしれない。
「携帯食料があるだろ」
「非常用に取っておきたいの。食べ物をその場で調達するのはサバイバルの基本でしょ?」
 ……そこまでして、助けないと駄目かな? 答えが出ないので、僕は隣に立つスツルム殿を見下ろす。僕の私情に巻き込みたくはないが、僕一人で行くと言っても、スツルム殿は絶対に首を縦に振らないだろう。
「言っておくが、黒騎士はあたしの雇い主でもあるからな」
 僕の心の声が聞こえたんだろうか。それともうっかり声に出してた? スツルム殿の言葉は少ないが、本質を突いてくる。
「うん」
 スツルム殿の顎に指を添えて、上を向かせる。こういう時なんだから、軽い口付けぐらい許してもらえるんじゃない? なんて、極度の緊張で判断力が鈍った僕の愚行を、スツルム殿が許す筈も無い。
「はっ!?」
「あたーっ!」
 突き飛ばされた僕は勢い良く、崩れかけた民家の壁にぶつかる。その衝撃で一部が崩壊して、落ちてきた屋根が僕の脚をがっちりと挟み込んだ。
「はは……なんかこれ前にもあったような……」
「ド、ドランク! 大丈夫か? 頭打たなかったか?」
「大丈夫大丈夫。また前みたいに挟まってるだけ……と言いたいけど、ちょっと血の流れが止まりそうかな」
 スツルム殿はせっせと瓦礫をどかしてくれたが、スピードに限度がある。幸いな事に、複数の足音が聞こえてきた。
「おーい」
 呼びかけに応じて周囲をきょろきょろと見渡していた、茶髪の女の子が僕の姿を捉える。
「あっ! あそこ! エルーン族の方が……」
「はぁ」
 スツルム殿が小さく溜息を吐き、手を止める。
「えー、見つけてもらったからって作業止める事無いんじゃない」
「うるさい、疲れるんだぞこれ」
[]って! 何も蹴る事ないでしょ!」
 ああ、でも、おかげで少しはいつもの調子を取り戻せた。

「僕達……黒騎士を助けたいんだ」
 瓦礫の下から這い出てそう言った僕に、皆が奇異を見る視線を寄越す。まあ、日頃の行いを考えたら、そうなるよねぇ。
 中でも、オイゲンという老兵がいつになく目を見開いたのを、僕は見逃さなかった。彼がアポロの言う「碌でもない奴」だという事は、調べがついている。
 過干渉な癖に無関心だった両親を持つ僕からしてみれば、彼はまだまともな父親に見えた。尤も、彼とアポロの間に何があったかなんて僕は知らないし、歪んだ親子関係でも、傍から見ればそうと悟られない事は多くあるだろう。現に、僕とお父様との間に何があったかだって、あの家の者くらいしか知らないんだから。
 とにかく、僕に今できる事は、そしてやるべき事は、アポロの代わりにオイゲンを糾弾する事ではない。アポロを救い出す為に、この先がどんな道であろうと、進まないと。
 例え修羅の道を辿って、鬼に変わってしまうとしてもだ。

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