もう一回 [6/7]
知っていた。知っていたさ。最初から、何を手に入れたって満たされないんだって。何かを得られたと思ったその瞬間から、底に開いている穴から流れ落ちるんだって。
この世には取り返しのつかない事が沢山ある。死んでしまった人が生き返らない様に、殺されかけた心はその恐怖を知らない人と同じには戻れない。必要な時に適切に与えられなかった光や音や愛情は、子供のその後に大きな影響を与える。
だから最初から「欠けている」という認識で生きていくのが良い。その穴を隠すのは、服で傷を隠すのと同じくらい容易い。誰とも深く関わらなければ。
「イッちゃったね。まだ頑張れそう?」
だから一度抱いた女に二度目は無かった。勘違いして泣いた子も居るかもなあ。でも、だいたいは僕の腹の傷痕を見てちょっと後悔するみたいだから、恨まれてるとかはあんまり心配してないけど。第一、セックスが好きで仕事にしてる子も居れば、僕みたいに行きずりの関係を求めてる奴も居る。
そういう相手とそういう関係を続けていれば良かったのに。
「ちょっと激しかったかな? 今度はスツルム殿が動いて良いよ」
蕩けた瞳で頷く。抱き上げる様に跨らせれば、たどたどしくも腰を振り始める。僕は寝転がるとその様子を見て愉しんだ。
この状況が欲しくて欲しくてたまらなかった。スツルム殿と過ごしていると、どんどん自分の中で彼女の存在が大きくなっていった。最初は微塵も無かった筈の、支配欲や征服欲、そして肉欲まである事に気付いたのは、別に最近の事じゃない。
揺れる乳房を触れるか触れないかの強さで撫でれば、中が一層締まる。余計な事するな、って怒るのも忘れてるの、えっちで可愛い。
ともあれ手に入れた訳だけど、やっぱりね、という感想しかない。もちろん気持ち良くない訳じゃないよ、寧ろ体の相性は良いと思う。でも、今もそうだけど、ずっと穴から何かが漏れてばっかりだったな。こりゃあ、今日中にまた傷を増やしてしまいそうだ。
こんなに愛しく思っているのに。スツルム殿だけじゃない。綺麗な景色も、美味しい料理も。僕は世界を嫌っている訳じゃない。そういう素敵な人や物に接しても、幸せになれない自分が、好きになれないだけ。
突然スツルム殿が動きを止めた。結構良いところまで来ていたのに、お預けをくらって思わず腰を掴んでしまう。真っ赤な顔で睨まれたけど、スツルム殿はまた口を小さく萎ませて腰を揺らした。
姿勢を支える為に僕の腹の上に乗せられていた手が動く。右から左へ、傷痕の向きに沿って。一度だけじゃなく、二度、三度と。
驚いてスツルム殿の顔を見れば、その眼差しは柔らかく、その手のひらの下を見ていた。
思わずその小さな手を包み込む。スツルム殿は撫でるのを止めない。ぞわぞわと背筋を昇る感覚を、何か適当な事を口走って和らげようとした。
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