もう一回 [5/7]
快楽で心の穴が塞がれば何も苦労はしない。そんなの絶対ありえないんだとこれまでの人生で知っていた。一夜の夢は自傷行為と同じだ。厭なことを忘れていられるのは繋がっている間だけ。終われば前より酷く憂鬱になる。
しかも今日はそれに酔う事すら出来なかった。カーテンの隙間から射す陽の光は、抱く相手がずっと敬愛していた人なんだと知らしめてくるし、その本人はやっぱり羞恥か恐怖に震えている。
それが余計に僕を煽る。狂えもしないが後戻りも出来ない。壊れ物を扱うように、そっと触れた。一度入れた後だからか、思ったよりも楽に飲み込まれる。
駄目だ、これ。どこまで我慢できるかな。
「大丈夫? スツルム殿」
いやでもやっぱりどうせなら初めてを覚えていたかったな、と無理矢理嫌な事を考えて視線を上げれば、スツルム殿は眉間に皴を寄せている。
「平気だ」
痛かったわけではないらしい。頬を擦ると、すぐに皴は消えた。
「指増やすよ」
僕は欲に抵抗するのを諦める。もう始めてしまったんだし、たっぷり堪能して終わらせよう。いつもいつも行為の前や最中はそう思っていて、それで後で落ち込むんだけど、血が下に引っ張られると忘れてしまう。
「入れるよ」
肉を割る感覚。ドラフ特有の体の厚みが締め付けてきて、鼻から言葉にならない声が漏れる。
「そんなにイイのか?」
「すっごく」
スツルム殿の方が余裕がある様だった。二回目、でこんなに慣れるものなのかな。痛くないか訊いたが大丈夫らしい。それをどう思えば良いのかわからなくて、再び接吻で誤魔化す。スツルム殿の方から舌を絡めてきて、昨夜の僕は一体どこまで教えたんだ、と腹が立った。
とにかく興が乗るまで色々と考えてしまうのが僕の良くないところだ。急くつもりはなかったが、さっさと終わらせたい気持ちもあって律動を始める。第一、お店の女の子にも飽きられるくらい遅いのが問題なんだよなあ。その上酒が入ってたって、昨夜何時間付き合わせたんだろう。見たところ、快感を強める為に乱暴をしたとかは無さそうで、ほっとしているけれど。
初め甲高く上がった嬌声は、徐々に色と艶を増していく。細い指が僕の結ったままの髪を乱した。涙目に吸い寄せられるように口付ける。気付いたら消したばかりの情事の痕をまた散らしていて、落ち着く為に一度抜いた。
「なん……」
不安げに腕を掴まれる。初めて見る表情は純粋に可愛い。この顔を見ながら進めるのも良いけど、もうちょっと違う刺激が欲しいかな。
後ろを向かせて秘部を拡げれば、初めて拒絶の言葉があった。ふぅん、昨日はこっちからはしなかったのかあ、と、自分に対して無意味な優越感を得る。
「あっ、やっ!」
穿てば刺激が強すぎたのか、悲鳴の様な声と共に逃げる所作をする。僕の方はもう速度を緩める余裕が無くて、スツルム殿がぐちゃぐちゃになって果てるまで劣情を奥深く押し付けた。
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