宇宙混沌
Eyecatch

第7章:とてもお怒りのジータちゃん


「スツルム殿って本当に面倒見が良いよねー」
 僕達はまたあの山に登っていた。何故かって? そりゃあ、スツルム殿が星晶獣がちゃんと眠ったか心配だって言うからね!
「グランサイファーだってほったらかしてどこか行っちゃったんだし、僕達ももう発って良かったんじゃない?」
「念の為だ。確認したらすぐに発つ」
 現場に到着する。星晶獣の姿は見当たらない。うん、大丈夫そう。
「昨日はベアちゃんがぶん殴ってすみませんでした」
 聞こえているかわからないけど、とりあえず代わりに謝っておく。流石に起きた時に暴れられて、島の人に被害が出たりしたら寝覚めが悪いからね。
「よし、じゃあ行こうか」
 僕は来た道を戻る。スツルム殿が追ってくる足音がしない。
「スツルム殿?」
「最後まで見た割には、すっきりしない顔をしているな」
「……そうかな?」
 誤魔化しきれない。
 僕は望んで自由になったんだ。それは間違いなく希望だった。
 それがわかったのに、胸の何処かがチクチクする。今一つ肯定できない。僕は星晶獣が起きてる間に、「理想の未来」とやらをアドバイスしてもらった方が良かったのかなあ。
「無理して忘れなくても良いんだぞ」
「え?」
「婚約者の事」
 スツルム殿の瞳が、真っ直ぐ僕を見ている。
「ええ~やだな~もう。僕、幻覚の内容スツルム殿に話したっけ?」
「ああ。最初に名前を呼んでいた」
「マジか」
 色々喋ってたとは聞いたけど、スツルム殿にも聞かれてたなんて。
 スツルム殿が歩み寄ってきて、僕の背中をぽんぽんと叩いた。
「忘れられない相手の一人や二人くらい、居ても構わないと思う。ずっとそれに囚われているのでなければ」
「……本当?」
「あたしだって、これまでに出会った人達のおかげで、今のあたしがあるんだ」
 上目遣いの赤い目が光を増す。僕は彼女の手を取ってエスコートしながら、山を下った。
「ドランクがこうやって優しく出来るのも、婚約者やベアトリクスに優しくしてきたからだろ」
「うん、そうかも」
「だったら何一つ無駄じゃない。悲しい気持ちも少しは残ると思うが、全部消してしまわなくても構わない」
 僕は黙って、ただ耳を彼女に向けている。スツルム殿は僕の手を強く引っ張ると、無理矢理後ろを向かせた。太陽が背になる。
「そこに人が居て光がある限り、どんなに小さくても陰もあるんだからな」

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